更新日: 2023.08.17 セカンドライフ
【60歳から64歳】年金開始までの「つなぎ」で利用できる制度や方法などにはどんなものがある?
60歳を定年としている会社に勤めている人の場合、定年退職から年金の受給開始まで5年の期間が生じることになりますが、今回は65歳になるまでの生活費を準備する方法や、収入を確保するために「つなぎ」で利用できる制度などについて解説します。
執筆者:小山英斗(こやま ひでと)
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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年金の受け取りは原則65歳から
老後に受給できる公的年金には「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」があります。国民年金のみに加入していた人は老齢基礎年金だけですが、厚生年金・共済年金に加入していた人は両方を原則65歳から受給できるようになります。
ただし、会社員など厚生年金に加入していた昭和36年4月1日以前生まれの男性、昭和41年4月1日以前生まれの女性の場合、65歳前でも特別支給の老齢厚生年金を受け取れることがあります。
特別支給の老齢厚生年金は「報酬比例部分」と「定額部分」に分かれており、受給開始年齢は性別や生年月日によって決まります。詳細については日本年金機構のホームページをご確認ください。
年金の平均受給額
65歳以降にもらえる老齢年金の金額は、加入していた年金制度や加入期間、納めた保険料によって違ってきます。それでも、自身が受け取れる目安の金額や平均的な受給額を知っておくことは、老後の生活に備える上での参考になります。
厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給権者の場合、老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせた65歳以上での年金の平均受給額(月額)は、男性が16万9006円、女性が10万9261円、全体の平均では14万3965円となっています。
年金受給開始までの生活費を準備する方法や収入を確保するための制度
厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査」によると、定年制を定めている企業の割合は94.4%です。定年制がある企業の中で、職種別などではなく、一律に定年制を定めている企業は96.9%ですが、そのうち定年年齢を60 歳としている割合は 72.3%、65歳以上は24.5%となっています。
この結果から、原則で年金が受け取れる65歳を定年年齢としている企業は、60歳で定年となる企業に比べて、現状ではまだ多くはないということが分かります。
そのため、60歳で定年を迎えた場合は年金の受給開始となる65歳までのつなぎとして、60歳から64歳までの5年間の生活費や収入をどうするか考えておく必要があります。
現役時代に老後資金を準備する
年金を受け取るまでの生活費を賄うための資金は、まずは現役時代に準備しておくことが一般的な方法です。
例えば、銀行の積立定期預金などの方法もありますが、税制面で優遇措置のある制度を利用して効率的に準備することもできます。
【図表1】
制度名 | 概要 |
---|---|
iDeCo(個人型確定拠出年金) | 毎月掛け金を拠出して、自分で運用方法を選んで運用します。 掛け金と運用益の合計額を、60歳以降に老齢給付として受け取れます。 掛け金の全額が所得控除の対象となり、運用益は非課税、受取時も退職所得控除や公的年金等控除が受けられるメリットがあります。 |
NISA(少額投資非課税制度) | 個人が資産運用を行う際に、株式や投資信託で得られた利益が非課税になる制度です。2024年からは新しいNISA制度が開始される予定で、生涯非課税限度額が1800万円になるなど、現行のNISAと比べて制度の内容が拡充されます。 |
※筆者作成
また、保険会社などが提供している個人年金保険を利用する方法もあります。個人年金保険は、契約時に決めた年齢まで保険料を積み立て、年金として受け取れる貯蓄型の保険です。
保険料払込期間が10年以上あるなどの要件を満たしている場合、支払った保険料に対して個人年金保険料控除が適用され、所得税・住民税の軽減を受けられるメリットもあります。
個人年金保険は「5年確定年金」「10年確定年金」や「終身年金」といった年金の受け取り方法を選ぶことができます。65歳までのつなぎのためであれば、5年確定年金を選択するのもいいでしょう。
退職金を利用する
勤務先が退職金制度を導入している場合、定年時に受け取る退職金を生活費に充てる方法もあります。
ただし、退職金は勤続年数や個人の功績、企業規模、業種などによっても金額は違ってきます。そのため、年金が支給されるまでのつなぎで利用することを考える場合、退職金でどのくらい生活費を賄えるのか、自身が受け取る目安の金額や相場をあらかじめ把握しておく必要があるでしょう。
例えば、中央労働委員会の「令和3年賃金事情等総合調査」によると、大企業での大学卒で定年を支給事由とした退職金は、調査した全産業の平均で2230万4000円(男性の例)となっています。
一方、中小企業の場合、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」では、大学卒の定年による退職金は全産業の平均で1091万8000円です。
年金の受給開始を繰上げる
年金の受給開始時期については、原則の65歳から「繰上げ」または「繰下げ」を請求することが可能です。繰上げにより最短で60歳から年金を受給できるようになります。
ただし、1ヶ月の繰上げに対して受け取れる年金は0.4%の減額となり、60歳から繰上げ受給する場合は最大24%の減額となることに注意が必要です。年金の減額率は受給開始を早めた月数の分だけ大きくなり、以下の計算式で求められます。
減額率(最大24%)= 0.4%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
※昭和37年4月1日以前生まれの人の減額率は0.5%(最大30%)
住んでいる自宅を活用する
自宅を所有していることが前提となりますが、自宅に住み続けながら不動産として活用して生活資金などを調達する、「リバースモーゲージ」や「リースバック」といった金融機関が提供している商品の利用も考えられます。
【図表2】
商品名 | 特徴 |
---|---|
リバースモーゲージ | 自宅を担保にして金融機関からお金を借入れた上で、自宅に住み続ける方法です。一般的な借入れとの違いは、借入期間中の返済は利息のみで、元本の返済は契約者の死亡後などに担保不動産の売却代金で返済します。 |
リースバック | 自宅を売却して代金を一括で受け取るとともに、売却先と賃貸契約を結び、賃貸料を払いながら自宅に住み続ける方法です。 |
※【リ・バース60】住宅金融支援機構 「よくある質問」より筆者作成
どちらの方法も自宅にそのまま住み続けられるのがメリットで、調達したまとまった資金を必要以上に使い過ぎないよう、年金受給開始までの生活費などに計画的に使うことが大切です。
雇用保険から基本手当を受給する
60歳で定年退職後、新しい仕事を探し、ハローワークへの定期的な転職活動報告を行うことで、雇用保険から基本手当(失業手当)を受けられます。
基本手当の給付額(日額)は離職時の賃金日額、給付日数は雇用保険の被保険者であった期間によって決まります。
【図表3】:離職時の年齢が60歳から64歳の場合の給付額
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2746円以上、5110円未満 | 80% | 2196円~4087円 |
5110円以上、1万1300円以下 | 80%~45% | 4088円~5085円 |
1万1300円超、1万6210円以下 | 45% | 5085円~7294円 |
1万6210円(上限額)超 | ― | 7294円(上限額) |
※厚生労働省 「雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和5年8月1日から~」より筆者作成
【図表4】:60歳で定年退職した方が雇用保険の被保険者であった期間別の給付日数
10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|
90日 | 120日 | 150日 |
※ハローワークインターネットサービス 「基本手当の所定給付日数」より筆者作成
60歳で定年した場合、雇用保険からの基本手当を受けられるのは最長でも150日であり、65歳までのつなぎにはなりませんが、新しい職に就くまでの生活費などに充てることはできるでしょう。
生活福祉資金貸付制度
年金を受け取れるようになるまでの間の生活費について、借入れで賄うことは可能な限り避けたいところですが、一時的に借入れに頼らざるを得ない状況になることもあるかもしれません。
市区町村の社会福祉協議会が実施主体となっている「生活福祉資金貸付制度」は、住民税非課税世帯や低所得者世帯を対象に、総合支援資金(生活支援費、住宅入居費、一時生活再建費)などを無利子(保証人なしの場合は年利1.5%)で貸付を行う制度です。
民間の金融機関や消費者金融などから無担保で借り入れを行う場合、借入金利が高くなりますので、生活のための資金について必要に迫られたら、こういった公的制度の利用も検討しましょう。
65歳からの年金受給開始まで働く
高年齢者雇用安定法により、定年を65歳未満としている企業に対して「65歳までの定年年齢の引き上げ」「定年制の廃止」「65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入」のいずれかを行うことが、65歳までの雇用確保措置として義務化されています。
継続雇用制度は原則として希望者全員に適用となるため、勤務先の定年年齢が60歳の場合でも、希望すれば65歳までは働き続けることも可能となっています。
定年後の継続雇用では、一般的に収入は減ってしまう傾向にありますが、それでも65歳までの収入を確保する手段として有効です。
まとめ
60歳で定年となった場合、原則として年金を受け取り始める65歳までの間に生活費や収入を確保するための方法や制度について解説してきました。
いずれにしても、定年や年金受給のタイミングを見据えて、老後に必要な資金について早めに対策や準備を行うようにしましょう。
出典
日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金
厚生労働省 厚生年金保険・国民年金事業の概況
厚生労働省 令和4年就労条件総合調査 結果の概況
国民年金基金連合会 iDeCo公式サイト
金融庁 NISA特設ウェブサイト
中央労働委員会 令和3年賃金事情等総合調査(確報)
東京都産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)
日本年金機構 年金の繰上げ受給
【リ・バース60】住宅金融支援機構 よくある質問
厚生労働省 雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和5年8月1日から~
ハローワークインターネットサービス 基本手当の所定給付日数
厚生労働省 生活福祉資金貸付条件等一覧
厚生労働省 高年齢者雇用安定法 改正の概要
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)