定年後は「再雇用」の予定でしたが、「業務委託にしてほしい」と言われました。どちらがお得なのでしょうか?
配信日: 2023.09.16
本記事では、定年後の再雇用契約と業務委託契約について、特に「収入」と「社会保険」に着目し、ケース別に解説します。
執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)
特定社会保険労務士・FP1級技能士
再雇用と業務委託の違い
まず、再雇用と業務委託について、おおまかにみていきましょう。
再雇用で働くと
再雇用とは一度退職した後、同じ会社で雇用契約を結び直すことです。再雇用後の処遇は会社によってさまざまですが、定年退職の場合は定年前と比べ、賃金が減少することもあります。社会保険や雇用保険は、再雇用前と変わりません。
ただし賃金の減少幅がある程度大きい場合は、一定の手取り額を確保するために、手続きをすると再雇用月から社会保険料を下げることができます。
再雇用の場合、新しく契約し直すとはいえ定年前と同じ会社で働き続けるため、生活に大きな変化はありません。また収入の減少はあっても、就業のための特別な出費はないはずです。
業務委託で働くと
一方、業務委託とは企業から仕事を請け負って報酬をもらう働き方です。よって、業務委託契約をすると、定年退職後は個人事業主になります。社会保険は原則として国民健康保険ですが、退職後2年間は一定要件を満たしていれば会社員時代の健康保険を任意継続できます。
ただし、会社員の健康保険料は会社が半額を負担しますが、任意継続被保険者は全額を自分で支払います。しかし任意継続の保険料には限度額があるため、退職時の賃金が高額だった人は、かえって保険料が安くなることもあります。国民健康保険料と比較して、どちらか選択することになるでしょう。
なお業務委託の場合は、初年度にある程度の出費が必要になるケースがあります。なぜなら個人事業を始めるにあたって、ある程度の仕事道具(例えばパソコン、プリンター、デスク、文具など)が必要になる場合もあるからです。
【ケース別】どちらの働き方がいい?
次に、再雇用の方が良い人、業務委託に向いている人について、ケース別に考えてみましょう。
体調的に不安がある人は
「治療中の持病がある」「近年、大きく体力が低下した」など、体調面の不安を抱えて働く人は、再雇用がよいかもしれません。なぜなら再雇用の場合は、労働法や社会保険に守られて働けるからです。
例えば、通院日や体調不良で出勤できない日には有休が取れます。再雇用の場合は、定年前までの有休残日数を持ち越せるため、有休が多く残っている人もいるでしょう。そして万が一、病状が重くなった場合でも、健康保険から傷病手当金を受給できます。傷病手当金は、賃金のおおむね3分の2の額ですから、休んでいるときも経済的な安定が保(たも)てるでしょう。
一方、業務委託で働く人が同じ状況になったら、有休や傷病手当金はありません。仕事ができない間の生活費は年金で賄うか貯金を取り崩すなど、自分で対処するしかないのです。
「健康保険を任意継続しているのに傷病手当金はもらえないの?」と思うかもしれませんが、制度上、任意継続被保険者は傷病手当金の受給ができません。
まだバリバリ稼ぎたい人は
「気力や体力が続く限り働きたい」あるいは「老後資金が不安だからとにかく稼ぎたい」という人は、業務委託が向いている可能性があります。
再雇用の場合、定年前より賃金が減少する人も多く、その減少した賃金が再び増加する可能性は低いでしょう。しかし業務委託の場合は、営業を重ねて新しく顧客を増やすなどすれば、収入が増加する余地があります。
とはいえ、業務委託でも、全く収入が増えないこともあり得ます。顧客の獲得にあまり熱心ではない人などは、特に大きな収入増は見込めないかもしれません。
収入を安定させたい人は
毎月定額の収入を望むなら、再雇用がよいでしょう。ただし、注意点もあります。それは、再雇用の場合「1年ごとに雇用契約を更新する」ことが多く、次年度も今と同じ収入が保てるとは限らないからです。また、契約自体が更新されないこともあります。
そして、次の契約内容がどうなるかは本人の能力だけでなく、会社の業績など別のファクターにも左右されます。さらに再雇用には「65歳まで」「70歳まで」といった雇用期間が設定されていることがあります。その「2度目の定年」の後に、すぐまた新しい仕事に就くのは少し難しいかもしれません。
一方、業務委託の収入は、毎月一定とは限りません。時期によって大きく変動することもあるでしょう。また、仕事で大きなミス等をしたら信用を失うばかりか、負債を負うリスクすらあります。しかし業務委託の場合は、業績が悪くなったときでも事業を続行するか閉鎖するかは自分1人で決定できます。
まとめ
再雇用と業務委託の比較をしてきました。2つの働き方はそれぞれに特徴があり、どちらが良いとは言い切れません。それでも定年後の職業生活を充実させるため、自分に合った働き方を選択したいものです。
出典
独立行政法人労働政策研究・研修機構 高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士