更新日: 2023.09.29 セカンドライフ

60歳からの高年齢雇用継続給付金が縮小されると聞きました。どうなるのでしょうか?

執筆者 : 伊藤秀雄

60歳からの高年齢雇用継続給付金が縮小されると聞きました。どうなるのでしょうか?
再雇用などで60歳以降も働き続ける場合の多くは、収入が大きく下がります。その際の補てんとなる公的給付の縮小が、実はもう決定しているのです。詳しく解説します。
伊藤秀雄

執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)

FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。

高年齢雇用継続給付金とは

高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳までの雇用の継続を援助・促進する目的で1995年に施行されました。基本手当(失業手当)を受給していない方を対象とした「高年齢雇用継続基本給付金」 と、基本手当の受給中に再就職した方を対象とした「高年齢再就職給付金」の2種類があります。
 
60歳以上65歳未満の被保険者が、原則として60歳時点に比べて賃金が75%未満の賃金に低下した状態で働いている場合に支給される給付です。給付額は、60歳到達時点と比べた賃金の低下率に応じ次のようになります(※1)。
 
表1

表1

(著者作成)
 
例えば、60歳到達時点賃金が40万円、低下率が50%(20万円)の場合、給付額は20万円×15%=3万円となり、賃金と給付額の合計は23万円になります。低下率が75%(30万円)以上になると給付はありません。
 

2025年から給付率が縮小される

この給付金の原則的な給付率15%が、2025年4月から10%に縮小されます。なお、経過措置として2025年3月31日までに60歳になっている人は15%が維持されます(※2)。
 
表2

表2

(厚生労働省「高年齢雇用継続給付の見直し (雇用保険法関係)」から一部転載)
 
この見直しは、2020年の通常国会で可決されていますが、縮小へ向かう背景には、高齢者層の雇用確保が浸透しつつある、との判断があります。
 
2013年の「高年齢者雇用安定法」の改正により、「65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)」を多くの企業が導入するなど、65歳までの就労を認める企業が大きく増えたことで雇用確保措置が進展したことがその理由に挙げられています。
 
なお、こうした法改正に伴い、高年齢労働者の処遇改善に取り組む事業主への援助措置として「高年齢労働者処遇改善促進助成金」が設けられました。60歳以降の賃金増額に取り組む事業主に対して支給されるものです。
 
高年齢雇用継続基本給付金を受給しているすべての労働者について、増額改定後の賃金の総額が、60歳到達時点の賃金の総額と比べ75%以上の場合に、その差額の3分の2(中小企業以外は2分の1)が一定期間支給されます。
 
つまり、高年齢雇用継続基本給付金を受給しなくて済む水準まで賃金を上げると、助成金が出るということです。とはいえ、75%ですから60歳前と仕事が変わらない場合などは、十分とはいえません。
 
また、この助成率は2021年度からしだいに逓減する計画となっており、2023年4月に従来の助成率(5分の4、中小企業以外は3分の2)から改正されました。2025年度に高年齢雇用継続給付金が10%に縮小すると、待遇改善が進んでいない会社では従業員の収入が実質減少する可能性があります。
 
60歳到達時点の賃金から75%以上への待遇改善は、各企業にとって待ったなしといえます。
 

給付率縮小にあわせ企業に求められること

実は、このような「仕事内容と賃金のギャップ」の問題意識は、法案の附帯決議に残されています。(以下、令和2年3月31日厚生労働委員会議決【附帯決議】より一部引用 ※3)
 
「(前略)政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

(中略)二、従来の高年齢者雇用確保措置においては、継続雇用制度を導入する企業が大半であり、かつ、その多くで60歳直前の賃金と比べ、賃金水準が大きく低下する傾向にあること等を踏まえ、高年齢者雇用安定法の目的である職業の安定と福祉の増進に加え、労働者の年金支給開始年齢までの生活安定及び高齢期の働きがいの確保に向け、不合理な待遇差を是正すべく均等・均衡待遇原則の徹底等、必要な対策を講ずること。(後略)」
 
「不合理な待遇差」が存在すると明記されています。雇用は確保されてきたけど……ということですね。
 
一方、「同一労働同一賃金」が法制化され、この趣旨からも高齢者を含め公正な待遇確保が進む環境が整備されてきたのですが、それでもまだ体制が整った段階といえます。
 
1年半後に迫った給付率の縮小までに、どの程度待遇差が改善されるのか、自社の制度を確認してみてはいかがでしょうか。
 
また、60歳以降は公的年金や企業年金、そして民間の個人年金保険に加入していればこれらの給付で収入を下支えすることが可能です。60歳以降の家計やライフイベントの見通しを踏まえて、各種給付の選択方法を検討いただければと思います。
 

出典

(※1)厚生労働省 雇用継続給付について/高年齢雇用継続給付についてのリーフレット
(※2)厚生労働省 高年齢雇用継続給付の見直し (雇用保険法関係)
(※3)参議院 議案情報 第201回国会 厚生労働委員会「雇用保険法等の一部を改正する法律案に関する附帯決議(令和2年3月31日)」
 
執筆者:伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員

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