年金、孤立、健康… なぜ老後が不安と感じるのか? 社会の変化にアンテナを立ててみよう!
配信日: 2023.10.18
これらの生活課題は社会問題として取り扱われ、国としても対策が行われるほどの大きなテーマではありますが、「老後の生活が不安」といった人生設計における生活課題についても、経済的な事柄としては深刻な問題といえるでしょう。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
老後の生活を不安と思う構造的な理由
私たちは人それぞれ、何らかの価値観に基づいて生きています。価値観は感情や考え方などのことですが、老後の生活が不安という価値観は人生や暮らしについて抱く感情や考え方といえます。
老後について、不安に思う理由はさまざまです。例えば、年金だけでは生活できないかもしれないといった経済的な理由や、定年退職後に人との関わりが少なくなって孤立しそうなど、人間関係の希薄化に起因する理由、また病気や介護が必要になった場合、どのように暮らしていけばいいかという健康上の理由などが挙げられるでしょう。
こうした不安に基づく価値観は、例えば、就職したら定年まで同じ会社で働くものといった終身雇用制度を前提にした労働観や、老後は夫婦で仲良く残りの人生を過ごしたいといった人生観、家族三世代で暮らすといった家族観などが、時代の変化とともに移り変わったことで表れたものともいえます。
見方を変えれば、かつては当たり前だった社会的な道徳観や倫理観、社会規範といった人々の価値観を取り巻く慣習や制度、法律などが変化したことに影響を受けていると考えられます。
社会学や社会福祉の分野で基礎とされる考え方に「環境の中の人」という言葉がありますが、人は誰もが社会環境の中で生きているため、環境が変わると価値観や行動も変わることをこの言葉は物語っています。
図表1
筆者作成
不安という価値観を解消するには知識と技術が必要
社会環境に合わせて、価値観も必ず変わるというわけではありませんが、時代によって環境が変化していることは事実として受け止める必要はあります。そのうえで、自分の価値観を変えたほうがよいと思えば変えればいいでしょうし、そのままでよいと思うなら変えなければいいだけです。
ファイナンシャル・プランナーとして、経済的な観点で老後の生活が不安という価値観に言及するならば、不安を解消したい場合は可能な範囲で資産運用や資産形成を行い、お金を有効活用するという価値観を持つほうがよいと考えます。
日本は長期にわたって生産年齢人口が減少傾向にあり、同時に高齢者人口は増加傾向となっているため、必然的に年金の受給額が減少する可能性が高いからです。
年金制度について、国はマクロ経済スライドという仕組みを平成16年(2004年)に導入しており、賃金や物価などによる改定率から年金の給付額が毎年調整されるようになっています。
この仕組みは、端的にいえば年金制度を維持させるためのものですが、ある程度の経済成長が伴わなければ、期待するほど年金額は増えないか、給付水準を維持、もしくは減額の方向で調整されることになります。
このような背景もあり、確定拠出年金制度や少額投資非課税制度(NISA)の改正が進み、「貯蓄から資産形成へ」というスローガンのもと、公的年金だけに依存しない老後の資産形成が国によって推奨されています。
ここで上記の価値観についての関連図(図表1)に戻りますが、老後の生活不安を解消するためにお金を有効活用するという価値観を持つ場合、その実現に向けた次のステッ プとして知識(情報)と技術(方法)が必要となります。
知識を身に付け、技術を習得する際に意識したいのは、知識と技術を相互に関連付けながら経験を重ねることです。資産形成を行う場合、知識があるだけでは中途半端ですし、逆に技術だけを習得しても知識の裏付けがないため、これはこれで中途半端な理解につながります。
時間がない、忙しいという人は、近年よくいわれる「ほったらかし投資」に興味を示しがちですが、ある程度の知識と技術があればそれでもよいとは思います。なぜなら、多少は放っておいても状況判断を自ら行うことができるからです。
しかし初心者の場合、「投資はほったらかしでよい」という話をうのみにしてしまうことは、知識と技術は特に必要ないといっているようなものなので、自己責任の観点からは非常に危険なアプローチということができます。逆の見方をすると、知識と技術がある程度は伴わなければ、価値観を変えるのは難しいということです。
まとめ
現代社会は変化が速いといわれます。変化が速いと感じるのは、気づかないうちに社会環境が変わっていくからです。いつの間にか環境が変わり、その後で私たちは変化に直面します。
理想をいうならば、社会情勢の変化、つまり社会変動に対してアンテナを張り、敏感に変化をキャッチすることが自らの価値観を変えていく第一歩といえます。日々の生活で精いっぱいという場合、ほかに優先することがたくさんあり、なかなか難しいかもしれません。しかし、たまには変化を意識して世の中を見渡してみることはできるでしょう。
環境が人を変えるという視点を持ち、「環境の中の人」というワードを覚えておくだけでも、老後の生活が不安という価値観を変えることができるようになるかもしれません。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)