更新日: 2023.11.16 定年・退職
退職所得課税制度が変わる? 改正後はどんな影響があるの?
ここでは現行の退職所得課税制度を説明するとともに、今後、制度が改正された場合の影響について説明します。
佐賀FPオフィス 代表、ファイナンシャルプランナー、一般社団法人日本相続支援士会理事、佐賀県金融広報アドバイザー、DCアドバイザー
立命館大学卒業後、13年間大手小売業の販売業務に従事した後、保険会社に転職。1 年間保険会社に勤務後、保険代理店に6 年間勤務。
その後、コンサルティング料だけで活動している独立系ファイナンシャルプランナーと出会い「本当の意味で顧客本位の仕事ができ、大きな価値が提供できる仕事はこれだ」と思い、独立する。
現在は、日本FP協会佐賀支部の副支部長として、消費者向けのイベントや個別相談などで活動している。また、佐賀県金融広報アドバイザーとして消費者トラブルや金融教育など啓発活動にも従事している。
永年勤続者に手厚い現行の退職所得課税制度
現在、政府は終身雇用を前提とした退職金の課税制度を見直す方針を打ち出しており、2023年度の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)の中でも「退職所得課税制度の見直しを行う」と記載されています。
ただし、2023年10月末時点では税制改正に向けた議論の1つとされており、2024年度税制改正での見直しは行わず、2025年度以降に持ち越される方向となっています。
退職金は、勤務期間中に受け取る給与や賞与と異なり、永年勤続者への功労の意味があります。また、退職金は課税の対象となりますが、現行の退職所得課税制度では、勤続年数が長いほど退職金への課税が優遇される仕組みになっています。
退職金の受け取り方には、(1)全額を一括で受け取る「退職一時金」、(2)年金として受け取る「退職年金」、(3)「退職一時金と退職年金」の併用の3パターンがあります。
退職金を一時金で受け取ると、退職所得控除を差し引いて税額が計算され、現行制度での退職所得控除額の計算方法は、勤続年数によって以下のように異なります。
勤続20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
2勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
また、退職所得の金額は以下のように計算します。
退職所得=(退職金の額面-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額は、勤続20年までは年40万円ですが、20年を超えると年70万円に増えます。控除額が増えるということは、課税対象の退職所得が減り、支払う税額も減ることになります。
現行制度の見直しによる勤続20年超での退職金への影響
退職所得課税制度の見直し案について、現時点では具体的な内容は明らかにはなっていませんが、退職所得控除額の1年当たりの額を勤続年数にかかわらず一定にするという見方があります。
例えば、退職所得控除額を「40万円×勤続年数」に統一するという考え方ですが、仮にこのように制度が変更された場合、勤続20年超の方の退職金にはどのような影響があるのでしょうか。
ここでは60歳で退職し、勤続年数38年、退職金2000万円というケースで現行制度との比較をしてみます。
●現行制度
退職所得:{2000万円-800万円+70万円×(38年-20年)}×1/2=▲30万円
退職所得がマイナスとなるため、退職金にかかる所得税、住民税は0円です。
●見直し後(退職所得控除額が「40万円×勤続年数」に統一された場合の例)
退職所得:{2000万円-(40万円×38年)}×1/2=240万円
所得税:240万円×税率10%-控除額9万7500円=14万2500円
住民税:240万円×税率10%=24万円
合計:38万2500円
※復興特別所得税は含めていません。
まとめ
現行の退職所得課税制度では、退職所得控除額が大きくなることで退職金に税負担が発生しない永年勤続者の場合でも、制度の見直しの内容によっては税金を支払うケースが出てくる可能性もあります。
今回は、あくまでも見直し案として考えられる一例を基に現行の制度と比較していますが、今後、税制改正によって実際に退職所得課税制度の見直しが行われた場合は、どのくらいの税負担になるか把握しておくことが大切です。
また、高齢期の働き方を含め、定年退職後の生活や老後資金についてプランニングをしておくことも必要でしょう。
出典
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
執筆者:廣重啓二郎
佐賀FPオフィス 代表、ファイナンシャルプランナー、一般社団法人日本相続支援士会理事、佐賀県金融広報アドバイザー、DCアドバイザー