更新日: 2023.12.27 セカンドライフ

親が高齢ですが財産管理はどうすべき? 病気やけがに備えてやっておくこと

親が高齢ですが財産管理はどうすべき? 病気やけがに備えてやっておくこと
高齢になるにつれ認知機能が低下してきます。もし認知症と診断されると、例えば定期性の預貯金の引き出しが難しくなり、財産管理の面でも大きな支障が出てきます。比較的体も動き認知機能が衰えないうちに、準備を進めたいものです。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

増加する高齢者と認知症

高齢化の進展がますます加速し、75歳以上の人口も非常に多くなっています。それに伴い認知症と診断される方の数も、最近では600万人を超え、2030年には800万人を超えると推定されています。認知症だけでなく、足腰の衰えや重篤な病気にかかり、本人が金融機関に出向くことができなくなる事態も十分に考えられます。
 
認知症を突然発症してまず困ることは、金融機関に預けている定期性の預貯金の引き出しなどが困難になることです。キャッシュカードで引き出せる普通預金や通常貯金であれば、暗証番号を親族に伝えることで出金は可能です。
 
しかし、その他の金融資産管理や不動産管理、各種契約書の作成業務などに、大きな支障が出るかもしれません。例えば、不動産の売買などの行為も簡単にはできなくなりますし、新たな保険の契約などの締結にも、支障が出てきます。
 
こうした事態にならないためにも、元気なうちに必要な手続きをしておけば、重大な病気やけがに直面した際に、代わりの方が預金の引き出しなどの経済的行為ができます。
 

金融機関が進める代理人登録

本人がなるべく元気なうちに、財産保全の対策を講じることが大切です。最も簡便な方法は金融機関との取り引きに関して「代理人登録」制度を活用することです。
 
これは金融機関との間で、預金の引き出しや株式の売買などを、本人に代わって行う人を決めておく仕組みです。子どもなどの親族を「代理人」として登録することで、預貯金の引き出しや株式の売却などが代行できる仕組みです。
 
実際にできる経済行為は預貯金の引き出しや株式の売買などに限られていますが、登録をするだけで、代理人が経済行為を実行できます。費用もほとんどかからないため、認知機能の衰えを感じる前であっても、この制度の利用をおすすめします。まだ金融機関に登録されていない方は、手続きをされることをおすすめします。
 
最近では、認知症と診断された方の預貯金の引き出しができなくなり、老人ホームへの入居金が引き出せない、病院の入院費が払えない、といった事態も生まれます。
 
登録がないために、金融機関との間のトラブルも多くなっており、金融機関も率先して高齢者に「代理人登録」を推奨しています。自分が金融機関に行けなったときを想定し、信頼できる親族、トラブルになりにくい親族を決め、この代理人登録を行っておくことは意味があります。ただしこれだけがあれば十分というわけではありません。
 

家族信託は有効な方法

本人が認知症などの発症が見られずに、まだ元気な状態であれば、「家族信託」という手段が財産管理には有効になります。
 
これは信頼する家族に本人の意思で財産管理などを委ねる契約で、本人が認知症の発症など十分な判断ができなくなった段階で、金融機関からの預貯金の引き出しなどはもちろん、各種資産管理や不動産賃貸や売買の契約行為などが本人に代わって行えるものです。
 
「本人が元気なうちに」という条件が必要ですが、認知症に備える契約としては、非常に有効といえます。ただし家族信託は、委託した本人の利益を優先することが目的のため、財産管理が中心で、医療や介護サービスに関する契約は対象外になります。
 
信託契約は、3者で構成される契約で、財産を委託する「委託者」、管理と処分をする「受託者」、財産から利益を受ける「受益者」からなります。高齢の本人が委託者と受益者を兼ね、子どもなどの親族が受託者になります。
 
そのため、だれを受託者として家族信託の契約を結ぶかが重要です。契約のための証書作成費などがある程度はかかりますが、受託者である親族に対して、定期的な報酬を支払う必要はありません。
 
子どもたち同士の仲が悪い場合は、特定の1人と信託契約を結ぶと、他の子どもや相続人から大きな反発が予想されます。そのため誰を委託者にして信託契約を結ぶのかは、慎重に決める必要があります。誰と信託契約を結んだかを相続人全員に告知し、受託者となった方は、受託者の立場で行った取引内容を、相続人全員に知らせるようにすれば、相続発生後のトラブルは避けられるといえます。
 

任意後見制度の活用

成年後見人制度のうち、判断力が確かなうちに結べるのが「任意後見」契約の締結です。本人が元気なうちに信頼できる人を、この任意後見人に選ぶことです。
 
成年後見人制度には、「任意後見人」と「法定後見人」がありますが、元気であれば任意を選択でき、人も選ぶことができます。親族でも可能ですが、第三者と結ぶこともできます。不幸にして認知症を発症した場合は、親族と相談して「法定後見人」をつける必要があり、その場合は家庭裁判所が選任するため、弁護士や司法書士といった専門家が選ばれる確率が高くなります。
 
家族信託と比べ、任意後見は、本人が単身者である、親族間のトラブルが多い、といったときに有効な手段となり、契約締結後に本人の記憶力が衰えた際に効力を発揮します。
 
預貯金の引き出しなどの財産管理はもちろん、老人ホームへの入居手続きの代行、病院などの入院手続きや医療費の支払い代行などもできるため、生活全般のサポートが可能です。第三者がなることが前提のため、毎月の報酬支払が発生します。原則生涯の契約となるため、最初の段階で信頼できる人を選任する必要があるでしょう。
 

出典

厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要

 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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