更新日: 2024.01.07 介護
親の認知症が進んでも「成年後見制度」を依頼すれば預金を払い出せるそうですが、何か注意すべき点があるのでしょうか?
今回は、成年後見制度を利用するメリットや利用する際の注意点について紹介します。
執筆者:伊達寿和(だて ひさかず)
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員
会社員時代に、充実した人生を生きるには個人がお金に関する知識を持つことが重要と思いFP資格を取得。FPとして独立後はライフプランの作成と実行サポートを中心にサービスを提供。
親身なアドバイスと分かりやすい説明を心掛けて、地域に根ざしたFPとして活動中。日本FP協会2017年「くらしとお金のFP相談室」相談員、2018年「FP広報センター」スタッフ。
https://mitaka-fp.jp
成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由により、判断能力の不十分な人をサポートするための法的な手段です。家庭裁判所が後見人を指定し、対象となる人の財産の管理や、契約・手続きに関するさまざまな事務を代行します。
親が認知症で判断能力が低下し、自分で生活や財産の管理をすることが難しくなった場合、法的な手続きを通じて援助を受けられる成年後見制度は有効といえるでしょう。
成年後見制度のメリット
成年後見制度を利用するメリットは大きく分けて3つあります。
1つ目は、財産の保護と適切な管理ができることです。成年後見制度を利用すると、後見人が慎重に財産を管理し、親の生計を維持する手助けをします。
認知症の進行に伴って親が財産を適切に管理できなくなると、財産を無駄に使ったり、他人に悪用される可能性が出てきます。しかし、後見人が関わることで、財産について節度ある管理ができるようになります。
2つ目は、法的な保護が得られることです。成年後見制度は法的な手段のため、親にとって不利益が生じる契約などから守る役割があります。
不動産や高額な商品の売買契約のほか、相続で遺産分割協議を行う場合などに、後見人が法律に従ってサポートすることで、不当な契約や法的なトラブルに巻き込まれるリスクを減らすことができます。
3つ目は、生活の質の向上です。認知症を患っている場合は、医療や介護に関して本人による判断が難しくなることがあります。
認知症が進行して介護施設へ入居する必要性が出てきた場合、後見人がいると入居の契約や、それに必要な支出などについて適切にサポートを受けられます。その結果、親が安全な環境で快適に過ごせるようになるかもしれません。
成年後見制度を利用する際の注意点
成年後見制度を利用する際の注意点について紹介します。
まず、成年後見制度を利用すると、親の意思が反映されにくくなる可能性があります。後見人が財産の管理を行うので、日常生活費を除く大きな支出については後見人の判断が重要になります。
例えば、親が子どもに資金的な援助をしたいと思っても、後見人が本人のためにならないと判断した場合は認められないことがあります。この点については、親の希望や価値観を尊重する人を後見人の候補として選ぶことで軽減できる可能性があります。
親にまだ十分な認知能力がある段階であれば、子どもに生前贈与をする、アパートなどの収益不動産については家族信託(保有する不動産などの資産を信頼できる家族に託し、その管理や処分を任せる契約)を利用するなど、その他の手段も併せて考えるといいでしょう。
次に費用の問題が挙げられます。後見人には手数料が発生する場合があります。所有している財産が多い場合は弁護士など専門家が後見人になるケースがあり、財産額に応じた手数料が定期的に親の財産から差し引かれることになります。
成年後見制度の利用を開始すると、原則として途中で止めることができず、親が亡くなるまで手数料の支払いが続く点にも注意しましょう。また、成年後見制度を利用するための手続きにも時間がかかります。
成年後見制度の利用には、家庭裁判所での申し立てが必要になります。
申し立てから後見人が選定されるまでの手続きに数ヶ月を要することもあるため、親の認知症が急速に進行する可能性を考えた場合は早めの対応が必要かもしれません。
まとめ
認知症を患っている親がいる子どもにとって、親の財産の管理、契約行為について法的な保護や援助を受けられる成年後見制度はメリットがある手段の1つです。
ただし、本人のためと認められない理由で預金を引き出すことはできない点、弁護士などの専門家が後見人になると定期的に手数料が発生する点、制度の利用開始までの手続きに時間がかかる点などにあらかじめ注意してください。
成年後見制度の利用に当たって不明点がある場合は、弁護士や司法書士、行政書士など専門家のアドバイスを受けながら手続きを進めるといいでしょう。
出典
法務省 成年後見制度・成年後見登記制度
裁判所 成年後見制度について
執筆者:伊達寿和
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員