更新日: 2024.01.15 介護

親が認知症になると銀行預金を引き出せない…… その前にやっておきたい対策とは?

執筆者 : 蟹山淳子

親が認知症になると銀行預金を引き出せない…… その前にやっておきたい対策とは?
親が高齢になり介護が必要になると、子が直面するのは「どうやって親のお金を管理するか」という問題です。特に認知症になってしまった場合は、銀行口座が封鎖されてしまうこともあります。本記事では、そうなる前に考えておきたい対策を解説します。
蟹山淳子

執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)

CFP(R)認定者

宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。

親が認知症になるリスク

認知症になる人は、高齢になるにつれ増えていきます。厚生労働省老健局の資料によれば、80代前半で認知症または軽度認知障害がある人は22.4%ですが、90歳以上では64.2%に増加するということです。「自分の親も認知症になるかもしれない」と考えて、対策を講じておくと安心でしょう。
 
認知症になったときに想定されるトラブルのひとつが、銀行預金を引き出せなくなることです。銀行は高齢の預金者の認知判断能力が低下していると判断すると、預金を凍結してしまうことがあります。そうなると家族であっても、簡単に預金を引き出すことはできません。
 
成年後見制度(法定後見)を利用し法定後見人を立てれば、預金を引き出すことはもちろん、親が所有する不動産を売却することもできますが、家庭裁判所への申し立てから、調査や審判を経て後見人が決まるまで数ヶ月かかりますし、費用もかかります。
 
また、後見人の候補者として家族を推薦しても、家庭裁判所が専門家(弁護士、司法書士など)を選任することもあり、その場合は後見人に報酬を支払い続けなければなりません。家族が後見人になった場合も、家庭裁判所が後見監督人を選任すれば後見監督人に報酬が必要です。
 
とはいえ、多くの場合で引き出したいのは親本人の日常の生活費や介護費用などで、決して大きな金額ではないことから、法定後見の手続きをためらうご家庭も多いでしょう。そこで、認知症になる前の元気なうちに手続きをしておけば、家族は預金を引き出せるので、その方法を紹介します。
 

元気なうちに検討したい対策

(1) 代理人カード

近年、代理人キャッシュカード(代理人カード)を発行してくれる銀行が増えており、預金者本人の意思が確認できれば一定の親族へ代理人カードの発行が可能です。代理人カードがあれば、日常生活に必要なお金を家族が引き出すことができるでしょう。
 
代理人カード発行の対象となる家族の範囲や手続き方法は、各銀行によって違います。まずは親と一緒に銀行の窓口に出向き、相談してみましょう。
 

(2) 代理人登録の手続き

代理人カードは一般のキャッシュカードと同様に、1日に引き出せる金額に制限があります。例えば、有料老人ホームへの入居が決まり、入居一時金としてまとまった金額を支払いたいときなど、代理人カードで引き出すのは大変です。
 
また、普通預金が底をついてきて、定期預金を解約したいといったときにも困ってしまいます。そこで、まとまった金額の引き出しができる代理人の登録をしておくと安心です。
 
「代理人予約サービス」「予約型代理人」「代理人指名手続き」など、各銀行によって呼び方や取り扱いが少しずつ違いますが、元気で判断能力もあるうちに代理人の登録手続きをしておけば、判断能力が低下した後にも、代理人が本人に代わって普通預金の引き出しや定期預金の解約などができます。
 
もちろん、法定後見人に比べれば、可能な取引の範囲は限られていますし、銀行からは法定後見の手続きを勧められるでしょう。しかし、代理人カードや代理人登録でできる範囲だけで困ることがなければ、子どもが代理人として銀行預金を管理するのでもよいのではないでしょうか。
 

対策を講じないまま認知症になってしまったら

親と離れて暮らしていて、認知症が始まっていることに気づかなかったということもあるでしょう。代理人カードも代理人登録もないまま、急に有料老人ホームへ入居の話が進み、まとまったお金が必要となった場合など、法定後見人が決まるまで待つのでは無理があります。
 
全国銀行協会は2020年に「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引き出しに関するご案内資料」を作成しました。
 
この案内資料によれば、預金の引き出しには、原則として預金者本人の意思確認が必要だが、本人の生活費、入院や介護施設費用等のために資金が必要となり困った場合は、取引銀行へ相談してほしいということです。
 
親が認知症になり銀行口座からお金を引き出せずに困ったら、まずは必要書類を持参して銀行の窓口で相談してください。本当に親が必要とするお金であれば、引き出すことができるでしょう。
 
自分の親はまだまだ元気だと思っていても、突然介護が必要になることもあります。特に認知症になってからではできることが限られるので、元気なうちから備えておくと安心です。親子で、いざというときのお金の管理方法を話してみてはいかがでしょうか。
 

出典

厚生労働省老健局 認知症施策の総合的な推進について(参考資料)(令和元年6月20日)
一般社団法人全国銀行協会 預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料の作成について
 
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者

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