更新日: 2024.01.19 介護

どうしても避けたい 働き盛り世代の「介護離職」 減らす方法はある?

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

どうしても避けたい 働き盛り世代の「介護離職」 減らす方法はある?
親や配偶者の介護が必要になり、これまで勤めていた職場を辞め、介護に専念される方もいます。
 
介護のために離職をすれば、その家族にとって困った事態であるだけでなく、社会全体にとっても、大きくマイナスになります。最近増えつつある「介護離職」を減らす方法はあるのでしょうか。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

介護離職はなぜ起こる

仕事をもちながら、親や配偶者の介護を続けている方は、かなり増えています。総務省が公表している「就業構造基本調査」を見ても、仕事をもちながら家族などの介護を続けている方は、約370万人いると推定されています。
 
その中で、介護に十分な時間が割けない、仕事を続けることで肉体的・精神的負担が大きいとして、退職する方もかなりいます。
 
実際に介護をするために離職する方は、コロナ禍の時期は多少減少したものの、ここ数年を平均すると、毎年10万人前後はいると考えられます。介護する方と同居している、住居が近くにあるという方の場合はまだしも、介護する方が遠方に住んでいる場合には、さらに難しい環境になります。
 
介護離職を選択する方は40~50代の働き盛りが最も多く、自分または配偶者の親の介護のため、との理由が圧倒的です。離職することにより介護に専念できる、他人の援助による支出が減った、との前向きな意見がある半面、収入が大幅に減ることに対する不安に直面します。
 
離職した時点での大幅な収入減だけでなく、将来的には年金額の減少というマイナス面も待ち受けています。離職時は介護のことで頭がいっぱいでしたが、介護が終わり再就職をしたとしても、以前の収入を確保するのが難しいのが現実です。
 
とくに働き盛りの年代の方がリタイアするわけですから、社会的にも大きな損失となり無視できない面があります。労働力不足が深刻化している現在では、社会全体でこれを回避する方策が求められています。
 

社会全体で介護離職を減らす努力を

親や配偶者の介護のために、仕事を辞めることを防ぐ努力が何より必要です。離職を選択する理由として、勤務先での介護休暇の取得が取りづらい、実際に制度自体が利用しにくい、といった声がかなりあります。本当に休暇を取りたいときに取れない実態が見てとれます。
 
また勤務先の介護休暇制度があっても、その内容が周知徹底されない、といったことも見受けられます。就業規則に明確な記載がない会社もあり、実際には取得できることを知らない方も多いと思われます。介護休暇が必要な時期に取得できる、何回かに分割取得ができる、といったことが最低限求められます。
 
また、介護を1人で背負い込むのではなく、可能な限り家族間で協力し介護を分担する工夫も不可欠です。介護する人が家族内に誰もいないケースは別ですが、子どもを含め家族全体で支えられる場合は、ぜひとも努力すべきだと思います。
 
家族だけでなく、外部の力を頼りにすることも大切になります。家族内で完結するのではなく、外部の力を活用しましょう。介護度に応じて、担当のケアマネジャーなどと相談し、介護者に最適なプランを作成します。ヘルパーなどをうまく活用して、介護の負担を少しでも減らす工夫も大切になります。
 
ケアマネジャーやヘルパーとの相性が悪い場合は、交代を考えることも検討します。介護離職を防ごうと思えば、外部の協力者とうまく付き合うことは不可欠だからです。
 

「介護は社会で」という意識を徹底

病気の種類によっても介護の方法は異なってきます。高齢で徐々に衰弱してきた、脳梗塞を発症してあまり動けない、といった方の場合は、ベッドに横にいる時間が多いため、介護の方法もほぼ決まってきます。
 
問題なのは認知症の方です。自分がまだ何でもできると思っている、落ち着きがなく相手に強い言葉であたる、1人で徘徊して自宅に戻れなくなる、といった自分を制御できない症状をもっていると、介護をする側のストレスも増加します。在宅での介護がかなり難しくなります。
 
介護をする側も介護をされる側も、在宅でかつ家族中心で、という発想を持たれる方も多いかと思います。
 
とくに現在80歳以上の方は、自宅で最期まで親の介護をされた方も多く、「施設に入居するなんて!」と拒否反応をされる方もおられるようです。介護される方にこうした意識が根強くあると、介護のスタイルが大きく制約されます。
 
介護の程度が軽い、介護できる家族が複数いる、といった場合は、家族中心の自宅介護も可能かもしれません。
 
しかし、ヘルパーの訪問に対しても、他人の介護は受けたくない、他人を自宅へ入れたくない、といった意識を捨て切れない方もいます。在宅であっても外部の方の協力は不可欠です。施設介護だと、コストの問題以前に、「家族に見放される」との抵抗感をもっている方もいるでしょう。
 
こうしたことが要因となると、在宅で家族が介護することが基本となり、家族による介護の負担が大きくなります。その結果、仕事の継続が困難になり介護離職を誘発する流れになっているとしたら、まずこの意識を見直すことが大切です。
 
仕事と介護を両立させる努力は不可欠です。介護サービスにかかる費用も、介護保険の適用外だと、すべて自己負担となります。
 
また介護の負担を減らすため、在宅介護をやめ、施設介護に変更しようとすると、これにはかなり経費がかかります。施設入居に備え資金を貯めておく、民間の介護保険に加入し保険金で賄う、といった準備が必要になります。
 
施設介護を選択する場合に備え、公的な特別養護老人ホームと、民間の有料老人ホームとの入居条件や費用も考えておきます。切迫した事態になる前に足を運び、入居条件を詳しく調べておきたいものです。
 
また民間の介護保険は、早い段階で保険に加入しておけば、その分掛け金も安くて済みます。これについても事前に知っておくと役に立ちます。
 

出典

総務省統計局 令和4年就業構造基本調査
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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