認知症 ケアのための諸費用は、今後は膨らむ傾向に。備えることはできる?

配信日: 2024.01.21

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認知症 ケアのための諸費用は、今後は膨らむ傾向に。備えることはできる?
厚生労働省によれば、日本国内の認知症患者の数は、2025年に65歳以上の患者数は約730万人とされ、その後も増加すると推計されています。
 
そのため、介護にかかる体制をどうするかが課題となり、同時に介護にかかるコストもいま以上に上昇すると思われます。思わぬ失費が増えるかもしれません。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

増加する認知症患者

平均寿命が延びることに伴い、認知症を発症する方も増えています。患者数は2025年には730万人と推計されますが、2030年には800万人を優に超えるといわれています。
 
高齢者の5人に1人以上が確実になる数字です。在宅で介護するにしても、施設で介護するにしても、どのようにケアしていくかは大きな課題となります。とくに、急速に労働力不足が深刻化し、誰が介護を担っていくのかが大きな課題となりつつあります。
 
認知症と診断されると、預金の引き出しや不動産の取引などに支障が出るだけでなく、治療のための医療費もかかります。そのために家族のサポートが十分に受けられる方は、まだ恵まれていると思いますが、子どもなどが遠方に居住している、身寄りがなく単身で生活している方などは、ヘルパーなどを新しく雇う必要がでてきます。
 
現在は個々のサービスに対してそれぞれ単価が決められ、認知症のレベルによって介護保険が利用できる仕組みになっていますが、現在でも症状の進んだ方にとっては十分とはいえません。この介護と医療に関する費用が、今後はさらに上昇する懸念があります。
 
認知症の症状が進むにつれ、外出した際に自宅の場所がわからなくなる、自宅を勝手に抜け出し徘徊する、といった行動も目立ってきます。家族で支えるにも負担が大きくなることは確実です。その際、ヘルパーなどの協力を得て在宅介護を続けるか、有料老人ホームなど施設に入居するかの選択を迫られます。
 

在宅介護か施設入居か

家族が施設入居を検討しても、本人の意志として施設には入居したくないと考える方もいるため、在宅を選ぶか、説得をして施設入居を選ぶかを決める必要があります。近くに家族がいない方は、経済的に可能であれば施設入居が賢明といえます。
 
在宅と施設の費用を考えた場合、基本的には在宅に比べ施設入居のほうが経費は高額になりますが、介護度が高くなるほど在宅介護の経費も高くなります。と同時に、どちらの場合も今後は経費の上昇が確実に見込まれるため、3年後、5年後の経費は現在よりも高くなることを念頭に考えることが大切です。
 
在宅で介護ヘルパーの依頼やデイサービスを利用する際は、ケアマネージャーと協力して介護プランを作成、それに沿って実行するのが一般的です。認知症の介護費用は、とくに在宅では通常介護より高額になります。介護保険では、介護度により利用できるサービスが決められるため、追加の経費もかかります。
 
自治体からの補助もありますが、多くは自己負担です。また通院の必要があると、医療費の増加以外に、タクシー代など交通費も発生します。また在宅では、食費が常にかかります。在宅での介護費用の目安は、月当たり12~18万円(医療費は除く)ですが、介護人材の不足などにより、経費はさらに上昇しそうです。
 
施設入居の費用は、在宅に比べ高くなります。施設によっては、人手が不足しているため「認知症患者お断り」の施設もあり、入居時に確認が必要です。
 
公営の特別養護老人ホームのほうが、民間の有料老人ホームに比べ費用は割安ですが、入居希望者が多く簡単に入居できないかもしれません。有料老人ホームでは、部屋代に相当する入居一時金が必要な施設があります。立地により費用総額も変わってきます。
 
毎月の介護費用の目安は、公営では15~20万円程度ですが、民間では20~50万円(部屋代込み)が標準で、なかには優に100万円を超える施設もあります。食費は原則経費に含まれるほか、簡単な医療行為を行ってもらえるため、通院費などは少なくて済みます。
 

新たに増える支出に備える

通常の医療や介護にかかる費用は、新たな病気が見つかる、転倒によりけがをする、介護度が上がり衰弱する、などの事情で増加します。仮に医療費が横ばいだったとしても、在宅介護では別の経費も発生します。
 
例えば、認知症が原因で徘徊が頻繁に起こるようだと、それを防ぐために、同居家族の不在時に「見守りサービス」を依頼することになります。どの程度の時間を依頼するかにもよりますが、月額10〜15万円程度はかかることもあります(金額は目安)。
 
さらに1人での単独行動ができないため、買い物代行サービスや配食サービスなどが、必要となることも十分に考えられます。
 
在宅であれ施設入居であれ、介護度が進み認知機能が極端に衰えてくると、預金の引き出しなど経済行為ができなくなります。ごく身近に家族がいれば代行できるのですが、成年後見人を付けることが求められる事態も発生します。
 
家庭裁判所に申し立て、裁判所が専門家を後見人として選任しますが、そのための経費は決して安くありません。申し立て費用や後見人への月謝が発生します。
 
最近では人手不足と物価高騰が進んでおり、医療や介護にかかる費用も年々上昇することが予想されます。現在の価格で受けられるサービスが、数年後には大きく値上がりする可能性があります。思っていたより、医療や介護に関するコストは高くなるのです。
 
こうした増大する経費に備えるため、民間の保険に加入しておくことも選択肢になると思われます。認知症と診断された時点で保険金が下りる「認知症保険」や、公的介護保険でカバーしきれない付加サービスを補強する民間の「介護保険」は役に立つかもしれません。
 
あるいは徘徊に伴う事故を補償する損害保険など、ニーズに応じて選択、加入をすることで費用の補填ができます。将来の介護に備え、さまざまな状況を想定しておきましょう。
 

出典

厚生労働省 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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