【遠方に住む親の介護】仕事を辞めて同居介護するべきでしょうか?
配信日: 2024.02.13
執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)
CFP(R)認定者
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。
突然親が倒れて介護が必要になったら
元気だと思っていたひとり暮らしの親が倒れて入院、退院はできるけれど介護が必要になると言われたら、どうしてよいか分からなくなることでしょう。親に「住み慣れた土地を離れたくない」という思いが強く、親の介護は家族が担うものと考えているのであれば、仕事を辞めて親と同居する選択が最善と考えるかもしれません。
しかし、自身の生活を犠牲にすると、最初はうまくいってもしだいにストレスで消耗するようになり、介護がつらくなることが心配されます。
すぐに仕事を辞めようと考えてはいけません。介護は、どれだけ続くか分かっていればそれに応じて注力できますが、最初にどのくらいの期間になるか読めないのが難しいところです。生命保険文化センターの調査によれば平均が約5年ですが、10年以上続くケースも17.6%ということです。
仕事を辞めて収入がなくなれば貯蓄を切り崩すことになるので、介護が長引けば生活が苦しくなるかもしれません。また、自分の将来の年金も減ってしまいます。介護が終わった後に、望むような仕事が見つかる保証もありません。
仕事を続けながら、仕事と両立できる遠距離介護を検討してはいかがでしょうか。まずは遠距離介護でやってみて、それでは無理だと感じたら、改めて同居を考えても遅くはないはずです。
遠距離介護を始めるには
「遠距離介護」とは、離れたところで暮らしながら、親の日常生活をサポートする介護のことです。介護保険サービスや自治体独自のサービス、民間のサービスなどを利用して親が不安なく暮らせるような環境を子どもが整えます。
実際に介護をするのはプロに任せ、子どもが定期的に帰省して、通院の付き添いや他人には任せられない家事など、家族でしかできないサポートを行います。
介護の必要を感じたら、できるだけ早い段階で地域包括支援センターに相談しましょう。介護を始めるにあたって分からないことの相談や、介護保険サービスを利用するために必要な手続きのサポート、ケアマネジャーを探すなど、介護環境を整えるための手伝いをしてもらえます。そうして要介護認定を受けたら、ケアマネジャーと相談しながら介護の環境を整えます。
もう1つ必要になるのは、仕事と介護を両立するために介護休暇や介護休業などの制度を知り、利用できるようにしておくことです。「介護休暇」は対象となる家族が1人の場合は年5日まで利用できます。
「介護休業」は対象となる家族1人に通算93日まで、最大3回まで分割して取得できます。条件を満たしていれば介護休業給付金を受け取ることもできます。介護休業はまとまった日数が取れるので、親が安心して暮らせるような介護の環境を整えるために利用するのがよいでしょう。
この他にも会社の支援制度があるかもしれません。自分は「正社員ではないから無理」とあきらめてしまう人がいるかもしれませんが、介護休暇や介護休業は法律で定められた制度なので、パートやアルバイトだと利用できないという決まりはありません。まずは会社で相談してみましょう。
遠距離介護を成功させるために
(1)役立つ情報をできるだけ入手
介護を受ける親ができるだけ安心して暮らせるよう、利用できるサービスはフルに利用しましょう。そのためには情報を集めることが重要です。介護保険のサービス以外にも、自治体が独自に行うサービス、ボランティアのサービス、民間のサービスなど利用できるサービスはたくさんあるはずです。
例えば、緊急時にボタン1つ通報できる「緊急通報サービス」は、自治体のサービスとして利用できることがあります。
その他にも介護に利用できるサービスは自治体によって違うことが多いので、自治体のホームページ等で確認しておきましょう。また、帰省に飛行機を利用するなら航空会社の「介護帰省割引」など、交通費を抑える情報も重要です。
(2)地域の人を味方に
親が親しくしていた近所の人には帰省時に、手土産を持って親と一緒に挨拶に行き、何か気がつくことがあったときに連絡をもらえるよう、連絡先を渡しておくと安心です。また、近所の民生委員にも事情を話してお願いすれば、見守りを手伝ってくれることでしょう。かかりつけ医とも診察時に付き添って事情を話しておきましょう。
(3)ケアマネジャーとの連携を大切に
ケアマネジャーは介護のプロとしてアドバイスをくれたり、見守りをしてくれたりします。もしも親が急に倒れたときは、子どもが駆け付けるのに時間がかかるため、到着までの間はケアマネジャーに動いてもらわなければなりません。ケアマネジャーと良好な信頼関係を築くことは、親が安心して暮らしていくために大変重要です。
もちろんケアマネジャーだけでなく、実際にサポートしてくれるヘルパーさんなどとも良い関係を作り、協力しながら親をサポートできる環境を整えましょう。
介護は長期にわたり向き合っていかなくてはならない問題です。早急に介護離職を選択するのではなく、また1人で抱え込むのではなく、ケアマネジャーや近所の人などと協力しながら、会社や自治体の支援制度・サービスなどをフル活用して行っていくことをお勧めします。
出典
公益財団法人 生命保険文化センター 「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者