更新日: 2020.04.07 介護
相続人ではない「長男の嫁」の献身的な介護に報いるためには
しかし、相続法の改正により「長男の嫁」など相続人以外の親族が、一定の要件のもと、他の相続人に対して金銭を請求できるようになりました。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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介護の担い手
厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況」では、主な介護者は同居の親族で全体の58.7%を占めています。同居の親族の内訳をみると、「配偶者」が25.2%、「子」が21.8%、「子の配偶者」が9.7%と続きます。
性別で見ると、男性34.0%、女性66.0%と女性が多く、これを年齢階級別にみると、男女とも「60歳~69歳」が28.5%、33.1%と最も多くなっています。
平成13年調査では、同居は71.1%、同居の親族の内訳をみると、「配偶者」が25.9%、「子」が19.9%、「子の配偶者」が22.5%となっており、従来のように介護を「子の配偶者」に頼るのは難しくなっています。
「長男の嫁」が介護をしても貢献に対する報酬は相続では考慮されなかった
これまで、相続人でない「長男の嫁」がいくら献身的な介護をしても、相続の場面では遺言がない限り、貢献に対する報酬は考慮されませんでした。ただし、裁判例では、「長男の嫁」の貢献を、相続人である長男の「寄与分」として認めることで配慮したケースもあります。
「寄与分」は、被相続人の相続財産の維持、増加に「特別の寄与」をした相続人に認められる権利です。寄与分が認められる場合は、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」場合に限定されています(民法904条の2第1項)。
例えば、介護であれば、本来、施設介護をすべき要介護度の高い老親を在宅で介護することにより、施設入所の費用を節約できたというケースで「特別の寄与」が認められる可能性があります。
寄与分が認められた場合、寄与分を除いた財産を相続人間で分割することになります。あくまで寄与分は相続人に認められる権利ですので、相続人ではない「長男の嫁」には認められないので、苦肉の策として、相続人である長男の寄与分として「長男の嫁」の貢献を配慮してきた経緯があります。
しかし、「長男の嫁」がどんなに献身的な介護をしても相続財産を取得できないのに対し、全く介護を行わなかった長男や長女などの相続人が相続財産を取得できるのは不公平です。そこで、改正相続法では「特別の寄与」という制度が新たに設けられました。
「特別の寄与」制度とは
相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払を請求することができる制度です。これにより、介護等の貢献に報いることができ,実質的公平が図られることになります。
「特別寄与者」は、相続人が複数いる場合は、各相続人に対して、その法定相続分に応じて請求できます。ただし、特別寄与料を請求するには、「特別寄与者」が「無償」で「労務」を提供していたことが必要です。介護の証拠を残しておきましょう。請求の期間制限がある点も注意が必要です。
相続の開始時および相続人を知ったときから6ヵ月以内、または相続開始のときから1年以内に請求することが必要です。
保険金の受取人に指定しておくという方法も
特別寄与料が認められても、相続人との間で金額を巡ってもめる可能性があります。協議が調わない場合は、家庭裁判所に「審判」を申し立てることができますが、それに備えて、介護の証拠を残していくのも面倒です。
要介護者は「長男の嫁」に感謝の気持ちがあるのであれば、判断能力のあるうちに、遺言を残したり、死亡保険金の受取人を「長男の嫁」に変更したりするのが良いのではないでしょうか。
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。