親が老後資金の不十分なまま、「定年」を迎えそうです。不安なので「生活保護」を受給してもらうことはできますか?
配信日: 2024.04.08
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
老後資金ってどれくらい必要なの?
老後資金として必要なお金の額を、いったん「年金だけでは賄えない額」として計算していきましょう。
参考までに、総務省統計局の「家計調査報告[家計収支編]2023年(令和5年)平均結果の概要」によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯においては、毎月3万7916円もの不足が生じています。また、65歳以上の単身無職世帯においては、3万768円の不足が生じています。
では、65歳で定年退職し、それから老後の生活が30年間続くと仮定して、この統計をもとに、不足する金額の総額を概算してみましょう。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、総額およそ1365万円が不足することになります。65歳以上の単身無職世帯においても、およそ1108万円が不足しています。
この金額は実際のところ、ライフスタイルや健康状態など、もろもろの条件によっても左右される部分ではあります。しかし、少なくとも老後資金は、1000万円は必要になると考えておくべきでしょう。
老後資金を不足したまま老後を迎える方は珍しくはない
「1000万円以上の老後資金が必要である」ということで、老後資金を用意できずに老後を迎える方は少なくないどころか年々増加傾向にあると考えられます。
実際、65歳以上の生活保護受給者数は、平成7年から令和2年までの間、右肩上がりの傾向が続いています。その結果、現在生活保護を受けている人数の半数は、65歳以上の方となっています。これについては、老後資金が不足した状態のまま、老後の生活に入ったことが原因と考えられます。
ここから、老後に生活保護を受給することは、少なくとも不可能ではないことが分かります。
親だけ生活保護は理論上可能
親子間には「扶養義務」があります。扶養義務とは、親族への経済的な支援義務をいいます。具体的には「親が子を、逆に子が親を金銭面で支援し、生活できるように面倒を見なければならない」という義務です。
とはいえ、この扶養義務は絶対的なものではなく、自分の生活だけで余力がないという場合に、自身の生活を犠牲にしてまで親族への扶養を強制するものではありません。
実際に、江戸川区の生活保護のしおりにも「親族が扶養しないことを理由に生活保護が受けられないことはありません」と記載があります。
また、生活保護申請時は「扶養照会」という生活保護の申請者を扶養できないか確認する通知が来ることが原則ですが、それを拒否しても生活保護を受けられる場合があります。
そのため、自身で親を扶養できないという、金銭面を含めた何らかの事情がある場合は、別居している親に対し、自身は金銭的な支援を一切行わず生活保護を受けてもらうことは可能です。
ただし、親と同居している世帯において親のみが生活保護を受給しようとする場合は、「世帯分離」という手続きが必要となり、別居している場合よりもハードルが上がります。
生活保護については原則として、生活保護を検討している方の住所地を管轄する、福祉事務所または市区町村役場に相談をしておきましょう。詳細を聞け、具体的な状況に応じた受給の可否も知ることができます。
まとめ
一般的な世帯で必要となる老後資金は、1000万円を超えることが想定されます。生活保護を受給している高齢者が年々増加傾向にあることや、自身の親がわずかな老後資金しか持たないまま老後を迎えることは、人ごとではありません。
とはいえ、誰もが親を扶養できるわけではないでしょう。そういった場合は、親の住所地を管轄する福祉事務所または市区町村役場に、生活保護について相談してみてください。
親のみに生活保護を受けてもらうことができるかもしれません。
出典
総務省統計局 家計調査報告[家計収支編]2023年(令和5年)平均結果の概要 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 図1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2023年-、図2 65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 -2023年-(18ページ)
厚生労働省 年齢階級別被保護人員の年次推移(93ページ)
江戸川区 生活保護のしおり 扶養義務者の扶養(3ページ)
執筆者:柘植輝
行政書士