更新日: 2024.04.26 定年・退職

うちの会社は60歳定年です。「再雇用で65歳まで働くと、給与は下がる」と言われたのですが、受け入れるしかないのでしょうか?

うちの会社は60歳定年です。「再雇用で65歳まで働くと、給与は下がる」と言われたのですが、受け入れるしかないのでしょうか?
定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、高年齢者の安定した雇用を確保するため、本人が希望すれば65歳まで再雇用することなどが義務付けられています。
 
一方で、再雇用後の給与は一般的に下がるといわれています。今回は、「高年齢者雇用安定法」および「高年齢雇用継続給付」について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者雇用安定法は、働く意欲がある誰もが年齢に関わりなくその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者の活躍できる環境整備を図るために定められました(※1)。
 

1.65歳までの雇用確保義務

この法律では、事業主が定年を定めるときは、定年年齢を60歳以上にすることが義務付けられています(※1)。また、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、次のいずれかの措置を講じることが義務付けられています。


(1)65歳まで定年を引き上げる。
(2)定年制を廃止する。
(3)希望者全員が65歳まで雇用を継続させることができるよう、再雇用制度または勤務延長制度を導入する。

2.70歳までの就業機会の確保(努力義務)

令和3年4月1日には高年齢者雇用安定法が改正され、「65歳までの雇用確保義務」に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保(努力義務)するため、以下のいずれかの措置を講ずるよう努力することが義務付けられました(※1)。


(1)70歳まで定年を引き上げる。
(2)定年制を廃止する。
(3)70歳まで雇用を継続させることができるよう、再雇用制度または勤務延長制度を導入する。
(4)70歳まで継続的に、業務委託契約を締結する制度を導入する。
(5)70歳まで継続的に、以下の事業に従事できる制度を導入する。

事業主が自ら実施する社会貢献事業
事業主が委託、出資(資金提供)などをする団体が行う、社会貢献事業

3.高年齢者雇用確保措置の実施状況

厚生労働省が公表した令和5年「高年齢者雇用状況等報告」(※2)によれば、65歳までの高年齢者の雇用確保措置を実施している企業は、全体の99.9%に及んでいます。
 
措置内容としては、継続雇用制度を導入している企業が69.2%、定年を引き上げた企業が26.9%、定年制を廃止した企業が3.9%となっており、多くの企業が再雇用制度などの継続雇用制度を導入していることが分かります。
 
また、70歳までの高年齢者の就業確保措置については、全体の29.7%の企業が「実施済み」としており、企業規模ごとに分けると中小企業の場合は30.3%で大企業の場合の22.8%を上回っています。措置内容は、継続雇用制度の導入が23.5%と、定年制の廃止(3.9%)や定年の引き上げ(2.3%)に比して多くなっています。
 

高年齢者の雇用状況について

 

1.高年齢者の就業状況

令和5年版高齢社会白書(※3)によると、下表のとおり多くの人が60歳以降も働いています。
 
図表1

    

高年齢者の就業状況
年齢 60~64歳 65~69歳 70~74歳
男性 83.9% 61.0% 41.8%
女性 62.7% 41.3% 26.1%

(※3を基に筆者作成)
 
一方、役員を除く雇用者のうち非正規で雇用されている人の割合は、男性の場合55~59歳で11.0%であるのに対し、60~64歳では45.3%、65~69歳で67.3%に増加しています。
 
また、女性の場合は55~59歳で58.9%であるのに対し、60~64歳では74.4%、65~69歳で84.3%になっており、非正規雇用者の割合は男女ともに60歳を境に大きく増加しています。
 

2.高年齢者の給与相場

国税庁が公表している「令和4年分 民間給与実態統計調査」(※4)によれば、下表のとおり、男女ともに60歳を境として、平均給与が減少していることが分かります。
 
図表2

年齢 平均給与/低下率
男性 女性
55~59歳 702万円 329万円
60~64歳 569万円 267万円
低下率 81.1% 81.2%

(※4を基に筆者作成)
 

高年齢雇用継続給付とは

60歳を境として給与が下がることの対策として、高年齢雇用継続給付が導入されています。
 
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の高年齢者の就業意欲を喚起するとともに、65歳までの雇用継続を促進するために、60歳到達時などに比して賃金が75%未満に低下した場合に給付金が支給される制度です(※5)。
 
高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」がありますが、離職することなく再雇用された方は「高年齢雇用継続基本給付金」が対象となります。
 
「高年齢雇用継続給付」の対象者となるためには、以下の要件を満たす必要があります。


1 60歳以上65歳未満の、雇用保険の一般被保険者であること
2 被保険者であった期間が5年以上あること
3 原則として60歳時点と比較して、60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満となっていること

「高年齢雇用継続基本給付金」が支給される期間は、被保険者が60歳に到達した月から65歳に達する月までとなり、各歴月(「支給対象月」といいます)単位で給付金が支給されます。なお、支給対象月の初日から末日まで雇用保険の被保険者であることが必要となります。
 
給付金は、原則として60歳に到達する前6ヶ月間の平均賃金を「賃金月額」として、「支給対象月に支払われた賃金額」を「賃金月額」で除して求められる「低下率(%)」に応じて支給されます。
 
給付金は、「低下率」が75%未満になると支給されるようになり、「支給対象月に支払われた賃金額」に「低下率」に応じて定められている「支給率」をかけた額が支給されます。「低下率」が61%以下の場合、「給付率」は一律15%となります。
 
「支給率」は下式により算定されますが、早見表を用いることでおおむねの値を知ることができます。


「支給率」(%)=((13725-183×低下率)÷280)×(100÷低下率)
支給額=「支給対象月に支払われた賃金」×「支給率」×1/100

 
図表3


 
なお「賃金月額」には上限値と下限値が設けられており、上限値は48万6300円、下限値は8万2380円となっています。
 
また、高年齢雇用継続給付の支給限度額は37万452円となっており、支給対象月に支払われた賃金の額に「支給額」を加えた額が37万452円を超える場合は、37万452円から支給対象月に支払われた賃金の額を減じた額が支給されます。
 
また、「支給額」が2196円を超えない場合、高年齢雇用継続給付は支給されません。
 

まとめ

60歳定年制の企業主は、労働者本人が希望した場合は、再雇用などにより65歳まで雇用を継続することが義務付けられています。
 
しかし、賃金を維持することは義務付けられておらず、60歳以降に再雇用によって働く場合、それまでの賃金より給与が下がるケースが多くなっています。
 
そこで、再雇用後の賃金が60歳に到達する前6ヶ月間の平均賃金より75%を超えて下がる場合は、雇用保険から高年齢雇用継続基本給付金が支給されることになっています。
 

出典

(※1)厚生労働省 高年齢者雇用安定法改正の概要
(※2)厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します
(※3)内閣府 令和5年版高齢社会白書
(※4)国税庁 令和4年分 民間給与実態統計調査 調査結果報告
(※5)厚生労働省 高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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