更新日: 2024.05.08 その他老後
認知症になると預金を下ろせなくなるそうです。母の年金振込を私の口座に指定できませんか?
認知症は判断力の低下を伴うため、財産保護の観点から銀行口座が凍結され預金の引き出しが難しくなる場合があります。
認知症に備えて生活費として重要な老齢年金の振込先を家族名義のものに変えることはできるのでしょうか、解説していきます。
執筆者:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。
認知症の状態によっては口座凍結が
日本は世界で最も平均寿命の長い長寿大国ですが、平均寿命が伸びるにしたがって認知症にかかる確率も上がっていき、2025年には高齢者の5人に1人が認知症にかかるともいわれています。
認知症は今後ますます身近な病気となっていきますが、認知症の症状には物忘れや判断力の低下といった日常生活に影響を及ぼすものが含まれます。
例えば、判断力の低下が本人の財産保護に支障が生じると金融機関が判断した場合、口座凍結が行われます。ひとたび口座凍結が行われるとたとえ家族であっても預金の引き出すことはできません。
金融機関が認知症を認識するケースとして、名義人が手続きなどで窓口を訪れた際に判断力の低下が確認された場合や家族など本人以外の方が連日限度額いっぱいの払い出しをしている場合などがあります。
年金振込先を本人以外にすることはできない
老齢年金はゆうちょ銀行の窓口で現金で受け取ることも可能ですが、簡単で受け取り忘れのない口座振込みを利用するのが一般的です。
そのため、口座凍結が行われると老後生活の柱である老齢年金を利用することができなくなり、生計を一にする家族に大きな金銭的負担が及んでしまいます。
認知症による口座凍結に備えて年金口座を家族名義のものに設定したくなりますが、年金受取口座は本人名義のものに限られています。
認知症対策に代理人カードは有効?
ケガや病気などで本人が預金を引き出せなくなった場合に備え「代理人カード」を作成することができます。
代理人カードは生計を一にする家族が持つことができ、預金の振込みや払出しといった基本的な操作を行うことができます。
代理人カードは一見認知症対策に利用できそうですが、定期預金の解約ができないなどの制限もあります。
しかし、代理人カードは、原則として口座名義人本人が認知症で判断力が低下した場合は利用することができず、口座凍結が行われた場合は代理人カードも利用できなくなるリスクもあります。
口座凍結が行われたら?
口座凍結が行われた場合、「成年後見制度」を利用することで口座凍結を解除することができ、預金の払出しも行うことができます。
ただし、成年後見制度を利用するには、さまざまな手続きと費用負担が必要となります。費用負担の額はケースバイケースで、数万円程度で済む場合もあれば、司法書士などを利用したり、制度利用者本人の判断能力の鑑定が必要となったりした場合は数十万円の負担が生じる場合もあります。
また、司法書士などの第三者が成年後見人として選任された場合は、管理する財産の額にもよりますが、毎月数万円が後見人の報酬として必要になります。
このように成年後見制度は、家族への負担は決して小さくありませんが、定期預金の解約やマイホームの売却なども含め全ての財産を管理できるメリットがあります。
また、財産管理を任せてしまうという点では、財産管理に不安がある本人が、自らの意思によって自分の財産を家族に預け、財産を預かった受託者(家族)が責任を持って管理・運用を行う家族信託も選択肢の一つとして検討するとよいでしょう。
まとめ
認知症に備えて老齢年金の振り込み先を家族名義のものにすることはできないため、判断力低下による口座凍結が行われると年金を生活費や治療費に充てることができなくなり、生計を一にする家族に大きな費用負担が生じる恐れがあります。
口座凍結が行われた場合、解除するには本人の判断力があることを示すか成年後見制度を利用するしかありません。
成年後見制度は費用負担が大きいですが預金管理だけでなくマイホームの売買なども行うことができるようになります。
認知症は今後ますます身近な病気になっていくと予想されているため、財産の管理について司法書士などの専門家を交えながら、判断力が低下する前に意思表示を行っておくなどの対策を立てるようにしましょう。
執筆者:菊原浩司
FPオフィス Conserve&Investment代表