夫が「50代での早期退職」を考えており、正直困ります。年金月額が「15万円」らしいのですが、踏み切ってよいのでしょうか……?
配信日: 2024.05.30
実際、過去そのように悩み、筆者のもとに相談に来た夫婦がありました。そこで、1月当たり15万円の年金が得られると知った方を想定して、そのような方は早期退職してもよいか、考えていきます。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
夫婦で月15万円の年金での生活は厳しい
そもそもですが、月額15万円で夫婦が生活することは、難しいのが現実です。総務省統計局の2023年度「家計調査報告」によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は、月額25万959円です。
1月当たり15万円の年金だけを頼りに生活していては、それが丸々手取りだと考えても、毎月10万円程度が不足します。仮に50代から80代までの30年間を夫婦で生活するとしたら、不足する生活費の総額は3600万円と、莫大な額となります。
もちろんそれだけの額の貯蓄があれば問題ないのですが、なかなか50代でそれだけの額の貯蓄を有している世帯は存在しません。金融庁の「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、世帯主が50代である全ての世帯における平均貯蓄額(金融資産を保有していない世帯を含む)は1212万円と、3600万円には及びません。
特に早期退職するとなると、「退職後に旅行などを楽しみたい」と考えている方もいるかもしれません。
生活費以外にも一定の支出が必要だと考えると、毎月生じる約10万円の不足分は、パートなどで稼ぐことを前提とするか、不足する生活費を補うだけの貯蓄を準備するかしなければ、生活は難しいでしょう。
繰上げ受給をすると年金額は下がる
もし、早期退職に合わせて年金を繰上げ受給しようと考えているのであれば、要注意です。月額15万円の年金額が、それ以下の金額に下がってしまいます。
年金は原則65歳からの受給となりますが、繰上げ受給をして受給開始時期を早めることで、最速で60歳から受け取ることができます。しかし、繰上げ受給では、1ヶ月繰り上げるごとに年金額が0.4%減額されます。仮に60歳から受給した場合、月額換算で15万円の年金は、11万4000円にまでさがります。
もし、「50代で早期退職したあとは生活費の不足を貯蓄で乗り切りつつ、年金は60歳から繰上げ受給する」というプランを考えているのであれば、年金の減額分も考慮する必要があります。
理想の年金額はどれくらい?
ここまでは現実的な部分だけを見てきましたが、「老後は遊びに出掛けたり趣味を満喫したりするなど、第二の人生を謳歌したい」、という理想を抱く人は少なくありません。その場合、月額15万円の年金で生活することは、相当に苦しいものと想定されます。
参考までに、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」では、老後に旅行やレジャーなどの趣味を楽しむ、いわば「ゆとりある老後」を送るためには、平均して37万9000円ほどが必要であるという結果が出ています。また、同調査においては、老後に必要な最低限の生活費は23万2000円という結果も出ています。
そのため、欲を言うのであれば、老後は最低限の生活費として23万2000円を、早期退職後も毎月確保できるようにしておきたいところです。自分たちの思い描く「老後の生活」にかかるお金を想定してみると、その額が意外と大きいことに気づくことでしょう。
まとめ
50代で早期退職を考えている場合、定年後の人生は、60歳や65歳で定年を迎える方に比べて長くなります。そしてその分、より多くの老後資金が必要となります。
それについて各種統計やアンケートを踏まえて考えると、よほど貯蓄額が多いなどのケースでない限り、月額換算で15万円の年金で生活するのは心もとないでしょう。早期退職へ踏み切る前に、もう一度各種データを基に、夫婦で話し合っておくべきでしょう。
出典
総務省統計局 家計調査報告〔家計収支編〕2023年(令和5年)平均結果の概要
公益財団法人生命保険文化センター リスクに備えるための生活設計より「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
知るぽると 家計の金融行動に関する世論調査[総世帯](令和3年以降) 各種分類別データ(令和5年)
執筆者:柘植輝
行政書士