更新日: 2024.06.29 定年・退職

あと5年で定年を迎えます「再雇用は給与2割減」と言われたのですが、そういうものでしょうか…?

あと5年で定年を迎えます「再雇用は給与2割減」と言われたのですが、そういうものでしょうか…?
高齢者の雇用を確保する観点から「高年齢者雇用安定法」によって、事業主には労働者を定年後も再雇用などによって雇用を継続することが推奨されています。
 
しかしながら、給与収入を維持することまでは求められていません。今回は、高年齢者雇用安定法と「同一労働同一賃金の原則」について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

高年齢者雇用安定法の概要

高年齢者雇用安定法は、急速な高齢化の進行に対応し、高齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは、意欲と能力に応じて働きつづけられる環境を整備することを、目的として定められています(※1)。
 
これまでは、高年齢者の雇用確保措置として、以下のいずれかの措置を講じる必要がありました。


(1)定年制の廃止
(2)65歳までの定年の引き上げ
(3)希望者全員の65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

さらに、2021年4月1日からは法律の一部が改正され、以下の項目が努力義務として追加されました(※2)。


(1)70歳までの定年の引き上げ
(2)定年制の廃止
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 1.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 2.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

高年齢者の就業状況

高年齢者雇用継続法の効果もあって、高年齢者の就業率は年々上昇しています。しかし60歳以降は、非正規雇用者の割合が上昇し、給与額が減少する傾向が見られます(※3、4)。
 

1.高年齢者の就業率は年々上昇している

高年齢者の就業率は、下図のとおり年々上昇しています。2023年度の就業率は10年前と比較して、60~64歳が15.1ポイント、65~69歳が13.3ポイントと、それぞれ大幅に上昇しています。
 
また、70~74歳では10.7ポイント、75歳でも3.2ポイントと、全ての年代で就業率が伸びていることが分かります(※3)。
 
図表1


 

2.60歳以降に非正規雇用の比率が上昇する

高年齢の就業者に占める非正規雇用の割合は下図のとおり、男性では55~59歳が11.0%であるのに対して、60~64歳が45.3%と、60歳を境に大きく上昇しています。女性の場合でも、55~59歳が58.9%であるのに対して、60~64歳が74.4%となっており、同じく60歳を境に比率が上昇しています(※4)。
 
図表2


 

3.60歳を境に平均給与が減少している

高年齢者の平均給与は、下図のとおり男女とも60歳を境に大きく下がっていることが分かります。60~64歳の平均給与額は、男女ともに55~59歳の平均給与額の約81%になっています(※5)。
 
図表3


 

「同一労働同一賃金の原則」とは

60歳を境に正社員から非正規雇用労働者に変わった際、賃金も2割ほど減少する傾向にあることは、先述した資料からも分かります。この状況は、再雇用に伴うものと推測されます。
 
「パートタイム・有期雇用労働法」では、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止しています(※6)。
 
いわゆる「同一労働同一賃金」といわれるものですが、同じ職務内容の正社員と非正規雇用労働者の賃金に差を設けてはならないこととされています。
 
一方、再雇用に伴い正社員から非正規雇用労働者に代わり、再雇用後の職務内容や勤務形態が変更された場合は、その職務内容に応じた賃金が支払われることになるため、再雇用前の賃金を要求することはできません。
 
ただし、再雇用後の職務内容が再雇用前の職務内容と同一であった場合は、同一労働同一賃金に反するとの判例(※7)もありますので、賃金格差に疑問がある場合は厚生労働省が運営している「総合労働相談コーナー」(※8)で相談するとよいでしょう。
 
なお、再雇用後の賃金が60歳到達時の賃金の75%未満に低下した場合、65歳になるまで高年齢雇用継続給付金が支払われることがありますので、ハローワークで相談するとよいでしょう(※9)。
 

まとめ

「高年齢者雇用安定法」によって、事業主には定年後も再雇用などによって雇用を継続することが推奨されていますが、給与収入を維持することは求められていません。
 
実際に、雇用者の平均給与は60歳を境に2割ほど減少しています。
 
再雇用後の勤務形態や勤務内容が変わるのに伴い、職務内容などに見合った賃金に変更される可能性はありますので、今のうちから定年後の生活について考えておくとよいでしょう。
 

出典

(※1)厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~
(※2)厚生労働省 高年齢者雇用安定法改正の概要
(※3)総務省 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要
(※4)内閣府 令和5年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)
(※5)国税庁 令和4年分 民間給与実態統計調査 調査結果報告
(※6)厚生労働省 パートタイム・有期雇用労働法の概要
(※7)東京弁護士会 中小企業法律支援センター 同一労働・同一賃金に関するQ&A集 定年後再雇用の場合
(※8)厚生労働省 総合労働相談コーナーのご案内
(※9)厚生労働省 高年齢雇用継続給付金の内容及び支給申請手続について
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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