更新日: 2024.07.17 介護

3年ごとに改悪される介護環境。今年の介護制度の改正ではどう変わる?

3年ごとに改悪される介護環境。今年の介護制度の改正ではどう変わる?
2000年4月にスタートした介護保険制度は、3年に一度、制度や報酬が見直され、2024年度は第9期になります。本記事では、2024年度以降の介護保険制度改正のなかから、利用者に関係がある主な改正内容のポイントをお伝えします。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

65歳以上の介護保険料の所得段階の改正(2024年4月から)

介護保険料の財源は、公費(税金)と40歳以上の方が納める介護保険料で賄われています。負担割合は公費50%、40~64歳の方の保険料27%、65歳以上の方の保険料23%となっています。
 
65 歳以上の方の保険料は、3 年ごとに自治体が定める基準額(※)に、所得段階に応じた割合を乗じて決定され、その額は自治体によって異なります。
 
※基準額=介護サービスの総費用×65歳以上の方の負担分23%÷65歳以上の方の人数
 
今回の改正で、国の標準的な保険料の所得段階を現行の9段階から13 段階に増やし、高所得者(合計所得金額420万円以上)の乗率を引き上げ、低所得者の乗率の引き下げを行うことで、低所得者(世帯全員非課税)の保険料上昇の抑制が図られました。
 
具体的には、現在、合計所得金額「320万円以上」に設定している最も所得の高い区分(第9段階)を細分化して、新たに「420万円以上」(第10段階)、「520万円以上」(第11段階)、「620万円以上」(第12段階)、「720万円以上」(第13段階)の4段階を設け、「420万円以上」の高齢者については、これまでよりも高い介護保険料の負担をしてもらうことにしました。
 
一方、所得が低い第1~第3段階の高齢者(世帯全員非課税)については、乗率を下げ、介護保険料の負担額を減らしました。
 

一部の福祉用具に係る貸与と販売の選択制の導入(2024年4月から)

福祉用具は貸与により利用することが原則ですが、一部の福祉用具(固定用スロープ、歩行車を除く歩行器、松葉杖を除く単点杖、多点杖)については、貸与のほか販売の選択もできるようになりました。
 
なお、選択対象の福祉用具の提供は、福祉用具専門相談員かケアマネジャーが、利用者が福祉用具貸与か特定福祉用具販売のいずれかを選択できることや、メリット・デメリットを含め必要な情報について説明しなければなりません。利用者への提案については、医師や専門職の意見、利用者の身体状況等を踏まえる必要があります。
 
選択で「貸与」となった場合は、利用開始後6ヶ月以内に最低1回、福祉用具専門相談員がモニタリングを行い、貸与の継続について検討します。
 
選択で「販売」となった場合は、福祉用具専門相談員が特定福祉用具販売計画を作成し、その目標の達成状況を確認します。また、利用者などからの要請があれば、販売後に福祉用具の使用状況の確認と、必要な場合は使用方法の指導や修理などのメンテナンスを行うようにします。
 

一部の介護老人保健施設や介護医療院の多床室に室料負担(2025年8月から)

これまで室料負担がなかった一部の介護老人保健施設(老健)や介護医療院の多床室(4人部屋など)に、月8000円相当の室料負担が導入されます。
 
介護施設のうち、居室面積が1人あたり8平方メートル以上の多床室を利用する「II型介護医療院」の入所者と、同程度の広さの多床室を利用する「その他型」「療養型」の老健の入所者が対象になります。
 
これらの施設は、死亡退所が多い特別養護老人ホームと同様に事実上「生活の場」となっている現状を考慮しました。ただし、低所得世帯に関しては補足給付により、追加の費用負担が生じません。
 
なお、今回の改正に先立ち、近年の光熱水費の高騰を受け、2024年8月より基準費用額(居住費)が1日60円引き上げされます。
 

まとめ

今回は見送られましたが、自己負担割合が2割の人の対象拡大、ケアプランの有料化、要介護1・2の生活援助サービスの総合事業への移行、複合型サービス(訪問介護+通所介護)などが検討されています。今後ますます介護サービスは縮小し、利用者負担は増えていきます。介護保険が頼れない以上、貯蓄や民間保険などで自己防衛することが大切です。
 

出典

厚生労働省 高齢者支援課 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料
厚生労働省 介護保険計画課 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料
厚生労働省 老健局 令和6年度介護報酬改定における改定事項について
厚生労働省 第237回社会保障審議会介護給付費分科会(持ち回り)資料
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー

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