更新日: 2024.10.19 介護
年金暮らしの両親、母は持病持ち。家のことができない父に介護サービスを受けるよう勧めましたが「お金がない」と。介護サービスは年金で払えないほど高額なのでしょうか?
執筆者:柴沼直美(しばぬま なおみ)
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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目次
要介護認定によって1割で利用できるサービスは多い
介護サービスを受けるには、介護保険利用が必須になります。介護保険を利用すると要介護度によって1割負担で受けられるサービスの種類が変わります。1割負担なので経済的に大きな負担になることはありません。
ただし、それには地元行政から「介護認定」という決定通知を受け取らなければならず、そのためには、かかりつけ医師から現状について述べた意見書と、市区町村の職員などからの訪問による聞き取り調査(認定調査)を受ける必要があります。
介護サービスを受ける親と介護の世話をしている介護者の間で、まず障害となるのが、このプロセスです。Aさんのように「大丈夫」と言う限り、聞き取り調査を拒否する可能性が高く、仮に来てもらっても「自分で何でもできる」と弱みを見せないことで、「介護サービスを受ける必要にまでは至らない」という結果になる場合があります。
どんな介護サービスをどのくらいの負担で受けられるか、ということ以前に、親を「支援を必要とする」という考え方にシフトしてもらうことが大きな課題になります。
「今の状況が体力的にピークである」ということを認識すべき
加齢とともに、これまでできていたことができなくなるということを認識してもらうことが、何より大事なことです。誰かの支援なしでは生活を維持していくことが難しいということを親に認めてもらうには、今私たちの周りで起こっている身近な一つひとつの出来事を見せて、自分たちに当てはめることでしょう。
親の介護・みとり・納骨まで一括して引き受けるサービスが好調
親世代には、かつての自分たちの親や祖父母の老後が記憶に定着していますので、「いざとなったら子どもたちが何とかしてくれるだろう」と思っていることでしょう。しかし現状は刻一刻と変化しています。
最近、「介護・みとり、納骨まで一貫した引き受けサービス」が好評であると話題になっています。驚くことに、このサービスに対するSNS等のコメントには肯定的なものが多数見受けられました。
例えば、子育てなど背負うものが多い現役世代から、「親の面倒をみるのは当たり前」という高圧的な姿勢で親の介護を続け、「介護うつ」という状況を引き起こしてしまった。介護・みとりのアウトソーシングは妥当なサービスだというものです。
年齢を重ねるにつれ、誰しも時代や環境の変化に伴う行動や価値観の変化を柔軟に受け入れるというよりも、自分の中で確率した価値観に固執するようになりがちです。一方で子ども世代は時代とともに変化していく価値観に同期化していきます。
世代間の「親との向き合い方」のギャップにより、子どもに介護やみとりを頼むことは期待できないと考えるべきでしょう。
老々介護、認認介護の限界
子ども世代に頼ることができなくなった今の時代、誰かに介護を担ってもらうとするなら、連れ添った配偶者となります。しかし、配偶者は同世代。老々介護、認認介護となり、必ず訪れる限界。この事実を受け入れなければなりません。
厚生労働省による「介護の状況」では、同居の介護者が悩みやストレスを「ある」と回答した割合が68.9%と、非常に高くなっていることがうかがえます。これは介護者のストレスというメンタル面での問題よりも、物理的なリスクという点が反映しているとみるべきでしょう。
老々介護・認認介護の具体的な問題
最も顕著な問題点は介護疲れ・共倒れですが、そのほかにも不適切な介護や詐欺被害があげられます。
具体的には、適切な介護をする能力がないために、何日も入浴できない、汚物まみれの布団で寝た切りの状態になる、請求書がたまり支払いが滞るといった劣悪な環境で暮らさざるを得なくなることです。
誰しも、「自分はまだ関係ない」と思っていますし、好き好んでこのような状況に陥るのではなく、放置しておくと、このような状況に陥る可能性が訪れるということです。その時が「いつ来るのか」を予見することができない以上、「いつか必ず訪れる」という前提で先回りして対応しなければならないということです。
老々介護、認認介護による悲劇を防止するには、将来を見据えて早めに相談
不安が現実になってからでは、対応も大ごとになり、多くの人を巻き込むことになります。
そうなる前に市区町村の社会福祉部、医療機関や地域包括支援センターに相談することが必須ですが、「頼らなければ、周りが共倒れになることを認める」姿勢が前提になります。ところが実際には高齢になれば、外からの助言を受け入れられなくなります。「認めることは恥」ととらえがちですが、そうではないことをわかってもらわなければなりません。
介護者になるであろう身近な人から「自分が介護されるようになる時の備えとして準備したいので付き合ってほしい」という口実で、一緒に役所や社会福祉協議会が主宰しているワークショップに参加するのもいいかもしれません。
実は、将来介護を受けるようになるであろう親も「自分の弱さを認める時」を探っているのではないでしょうか。きっかけを作ることで、タイミングを提供してみるのもいいでしょう。
出典
厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況
執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者