老後の生活には本当に「2000万円」が必要なのでしょうか?「年金だけ」で生活する方法はありませんか?
配信日: 2025.03.12

厚生労働省の「2023(令和5)国民生活基礎調査の概況」によると、年金収入だけで生活できない高齢者世帯は、全体の約6割となっています。また調査結果から、多くの世帯が生活費を年金以外の収入で補わなければならない、という現状が見受けられます。
このことから、「公的年金の受給額は十分でなく、貯蓄や他の収入源を頼る必要がある状況に直面している」と考えてよいでしょう。
そこで本記事では、老後を年金だけで生活するための必要額を平均から算出し、働き方の違いによる年金の受給額を踏まえたうえで、年金だけで生活できない可能性がある場合の対処法を解説します。

執筆者:水上克朗(みずかみ かつろう)
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー
老後に年金だけで生活するための必要額
老後に年金だけで生活する場合、生活するために資金がいくら必要なのか、把握する必要があります。毎月の生活費の平均をもとに、老後に必要な資金がいくらなのかを確認していきましょう。
総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)結果の概況」によると、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)」の家計収支は次のとおりです。
・実収入:24万4580円
・支出合計:28万2497円(消費支出:25万959円+非消費支出:3万1538円)
上記データによると、夫婦高齢者無職世帯の平均的な収入と支出では、毎月3万7916円の赤字となります。
また、「65歳以上の単身無職世帯(高齢単身者世帯)」の家計収支は、次のとおりです。
・実収入:12万6905円
・支出合計:15万7673円(消費支出:14万5430円+非消費支出:1万2243円)
同様に、高齢単身無職世帯の平均的な収入と支出では、毎月3万768円の赤字となります。夫婦世帯・単身世帯ともに、毎月3~4万円の不足が生じていることが分かり、年に換算すると約37~49万円の不足が発生することになります。つまり、この不足分に備えられるだけの貯蓄が必要だということになります。
仮に、65~90歳までの25年分が必要だとすると、およそ925~1225万円(=年37~49万×25年)の貯蓄が必要である、という計算になります。
年金だけで生活できるかどうかは、働き方によって異なる
続いては、年金だけで生活できるかを、働き方ごとの平均で見てみましょう。
支給される年金額は、自営業・フリーランスなど国民年金の第1号被保険者と、会社員・公務員など第2号被保険者とで異なります。それぞれの働き方で支給される年金額の平均を参考に、年金だけの生活が難しいのかどうかを考えていくことが大切です。
自営業・フリーランスの場合、支給される公的年金は国民年金のみです。厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金の平均月額は、5万7584円(男性:5万9965円、女性:5万5777円)です。
なお、20~60歳までの40年間、保険料を支払えば満額支給されます。ちなみに、2025年度の満額は6万9308円となります。
単身世帯の月の支出平均は約16万円であるため、国民年金だけで生活するのは難しいことが分かります。また、夫婦とも自営業・フリーランスの場合、年金の総額はお互い満額であっても約14万円です。夫婦で年金生活をするのは非常に困難といえます。
会社員・公務員の場合は、厚生年金保険料の支払いのなかに国民年金保険料が含まれるため、国民年金と厚生年金の2つの公的年金を受け取ることができます。
「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給権者の平均年金月額は、14万6429円(男性:16万6606円、女性:10万7200円)です。
単純に平均月額で夫婦の合計月額を計算すると、共働きのケースで、27万3806円(=16万6606円+10万7200円)となります。夫が会社員で妻が専業主婦のケースでは、22万2328円(=16万6606円+5万7777円)となります。
夫婦高齢者無職世帯の支出は、28万2497円であるため、共働きのケースで月8691円、会社員の夫と専業主婦の妻のケースで月6万169円の不足となります。
平均からすると、共働きのケースであっても、公的年金以外の備えが必要です。
年金だけで生活できない場合の対処法
年金だけで生活できない場合は、どうすればよいでしょうか? ここでは、対処法の一例を説明します。
一つ目は、働くことです。仕事を選ばなければ、求人は多くあります。介護スタッフ、警備員、清掃員、施設の管理人、軽作業・組立作業員などです。健康上の理由などで正社員やアルバイトといった働き方が難しい場合は、在宅でできる簡単な仕事を探すことです。
二つ目は、生活費の節約です。毎月の生活費の平均と年金額が大きく異なる場合、節約できる費用は節約を心掛けたほうがよいでしょう。生活費の節約で最も効果が出やすいのは、電気代や通信費などの固定費です。
食費や消耗品費などの流動費を節約することも大切ですが、たとえ流動費を5000円削減できたとしても、毎月続けていけるかどうかは限度があります。一方、固定費をすべて見直し5000円の節約ができた場合、毎年6万円の効果は確実に出ます。節約は、まず固定費の削減から始めましょう。
自身の努力ではどうしようもない場合は、家族との同居をすることや、仕送りを受けるのも選択肢の一つです。また、安易に考えることではありませんが、これまで紹介した方法を取ることが難しく、受給要件を満たしているのであれば、生活保護を受けることも検討しましょう。
まとめ
まず、老後を年金だけで生活できる必要額を算出しましょう。また、年金だけで生活できない場合は、老後の対策として、働くこと、生活費の節約などを行いましょう。自身の努力ではどうしようもない場合は、家族からのサポートや生活保護を受けることも検討しましょう。
出典
厚生労働省 2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況
総務省統計局 家計調査年報(家計収支編)2023年(令和5年)
厚生労働省年金局 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
厚生労働省 令和7年度の年金額改定についてお知らせします
執筆者:水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー