遠方で暮らす母に「認知症」の心配が出てきました。父がいるので母の介護は問題ないと思っていましたが、先日父が緊急入院! 母の介護に対し私はどう備えるべきですか?
配信日: 2025.03.19 更新日: 2025.03.21


執筆者:宮﨑真紀子(みやざき まきこ)
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、5年間繊維メーカーに勤務。
その後、派遣社員として数社の金融機関を経てFPとして独立。
大きな心配事はもちろん、ちょっとした不安でも「お金」に関することは相談しづらい・・・。
そんな時気軽に相談できる存在でありたい~というポリシーのもと、
個別相談・セミナー講師・執筆活動を展開中。
新聞・テレビ等のメディアにもフィールドを広げている。
ライフプランに応じた家計のスリム化・健全化を通じて、夢を形にするお手伝いを目指しています。
どうする? 母親が認知症かも
「お母さんの様子、少し変じゃない? もしかして認知症が始まったのかもしれない」妹からの電話に不安を覚えたAさんでしたが、遠方で暮らす両親を気にしつつ、そのまま過ごしていました。
ところが、元気にしていた父親が緊急入院することになりました。“両親は2人でいるから大丈夫”と楽観していましたが、母親をひとりにしておくことも心配です。Aさんは介護休暇をとり、父親が退院して落ち着くまで帰省することにしました。
父親の術後経過は良好ですが、両親の今後を思うと悩みは山積みです。62歳のAさんは、実家近くのマンションに転居することを考え始めました。今の会社で65歳まで働くことは可能ですが、転職も視野に入れ夫婦で移住するつもりと言います。実家で同居することは考えていません。
「両親2人の時は実家で、どちらかが亡くなりひとりになったら実家を売却して費用を捻出し、施設に入ってもらう」をAさんは想定しています。同様な想定をしている人はいらっしゃるのではないでしょうか。
この話を聞いて、「介護も重要だけど相続の準備は大丈夫だろうか?」と心配になりました。認知症と診断され判断能力がなくなると、相続の手続きも難しくなります。
円満家族でも遺言書は必要
一般的に「被相続人(想定されているのは父親)が認知症になる前に遺言書を書いてもらわないと、認知症になって判断能力なしと診断後に書かれた遺言書には効力がなくなるので気をつけよう」ということは一般に認識されているでしょう。
ですが、残された相続人(想定されているのは母親)が相続発生時に認知症になっていることは、あまり想定されていないかもしれません。
Aさんの場合、将来相続の対象となる財産は父親名義の自宅不動産と預貯金です。父親が亡くなったら、母親とAさん姉妹の3人で相続することになります。
●母親がひとりになれば、自宅を売却して介護施設の入居費用に充てる
●残された預貯金も介護費用等に充当し、残った金額はAさん姉妹で等分する
●これなら子どもに自分たちの老後費用の負担を掛けずに済むので安心
Aさんの父親はこのように考えていて、家族もこの気持ちを共有しています。
Aさんいわく「家族仲も良好なので遺言書は書いていないと思う」。相続が発生した時に遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。ですが相続人に認知症で判断能力が低下している人がいる場合は、分割協議を進められません。
その場合は、成年後見制度を利用して前に進めます。家庭裁判所に申し立てを行い、審判が下りてから後見が開始されます。この間1~2ヶ月はかかりますので、認知症を発症している相続人は、成年後見人選任の翌日から10ヶ月以内が相続税申告の期限になります。
ですが他の相続人は、「相続発生の翌日から10ヶ月以内に相続の申告と納税」のルールがありますので、時間的猶予は変わらないと考えられます。
このように認知症の疑いのあるのは母親ですが、父親の遺言書があることで相続の手続きがスムーズに運ぶことを父親に伝えることは重要です。「家族円満なので遺言書の必要はない」という思い込みは危険です。離れて暮らしいるからこそ、いろいろな想定をして、家族全員で介護や相続の話はしておくべきだと強く感じました。
まとめ
認知症を発症すると遺産分割協議が進められず、成年後見制度の利用が必要になる可能性があります。家族仲が良くても、遺言書がないと相続手続きが滞ることもあるため注意が必要です。相続を円滑に進めるためには、早めに家族で話し合い、遺言書の準備を進めておきましょう。
執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士