夫婦での「老後生活」を計画中。年金受給額が「1.9%引き上げ」なら、今後の生活も少しは楽になりますか? 物価上昇も踏まえ解説
配信日: 2025.03.23 更新日: 2025.03.24

そこで本記事では、ここ数年の年金額の改定状況と、実際の生活費の変化を見比べて、生活がどう変わるかシミュレーションします。物価が上昇している際の、年金以外の老後資金対策についても紹介しますので参考にしてください。

執筆者:松尾知真(まつお かずま)
FP2級
年金額の改定はどのように行われるのか
来年度は受給額の水準が上がる年金ですが、どのようなルールで変動するのでしょうか。実は年金は単純に毎年上がるわけではなく、前年の物価や賃金の変動率に応じて改定されます。つまり、時間差はありますが、物価や賃金が上がらないと年金も増えません。
さらに、「マクロ経済スライド」と呼ばれる、公的年金加入者総数や平均寿命の伸びなどを勘案して設定される「スライド調整率」が、物価や賃金の伸びから控除されます。そのため、計算上は、実際の物価上昇よりも低い水準でしか年金は増えないのです。
実際に、先日発表された2025年度の年金額の改定率は2024年度比1.9%の上昇ですが、前年の物価変動率は2.7%で、物価のほうが0.8%も高い上昇率になっています。
ちなみに、2024年度は前年の物価変動率3.2%に対し年金は2.7%、2023年度は前年の物価変動率2.5%に対し2.2%(新規裁定者)しか伸びていません。このことからも、年金の増加は物価上昇に追いついていないことが分かります。
老後の生活費はどのように推移しているのか
では、ここ数年の物価上昇で老後の生活費はどうなっているのでしょうか。図表1に、総務省統計局の家計調査から「65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)」の月平均消費支出と、生活費の不足額の推移をまとめてみました。
図表1
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
消費支出月額 | 22万4436円 | 23万6696円 | 25万959円 |
非消費支出月額 | 3万664円 | 3万1812円 | 3万1538円 |
月額支出合計 | 25万5100円 | 26万8508円 | 28万2497円 |
対前年比 | - | 5.2%増 | 5.2%増 |
収入に対する不足額 | 1万8525円 | 2万2270円 | 3万7916円 |
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2021~2023年 より筆者作成
図表1を見ると、2021年は新型コロナウイルス感染症の影響も残り、消費は低調でしたが、2022年と2023年の消費支出はいずれも5%を超える伸びです。そのため、2022年以降は消費支出の増加率が、おおむね2%台の年金の改定率を上回っており、家計収支で見ても年々不足額が拡大しています。
また、未発表の2024年の消費支出も、コメなどに代表される物価高騰もあり、さらに増えるかもしれません。物価の上昇から年金の改定まで1年以上のタイムラグがあり、明確な対比はできませんが、年金の増額以上に生活費が増える可能性がある点には注意が必要です。
物価上昇に備える老後対策はあるのか
年金が増額改定されても、物価の上昇はそれ以上になるため、老後の収支はむしろ悪化することが懸念されます。さらに、物価が上昇するインフレ時には、老後に備えて準備した資産も価値が目減りしてしまうかもしれません。
では、このようなインフレ時の老後資金対策にはどのようなものがあるのでしょう。まず、考えられるのは、働き方を見直して少しでも長く働くことです。
長く働けばそれだけ年金以外の収入を得る期間が長くなり、老後の収支は改善します。また、働いて給与があれば、賃金上昇の恩恵を受けたり、将来もらえる年金受給額が増えたりする効果もあるでしょう。
また、NISAやiDeCoなどを活用し、物価上昇率以上の利回りで運用できれば、老後資金の確保に加え、資産の目減りを防げます。もちろん、投資には元本割れのリスクがありますが、まだ40代であれば20年程度の運用期間を確保することも可能です。長期・積立・分散といった投資を心がけて運用すれば、対策として有効かもしれません。
ほかにも、退職金や貯蓄を活用し、年金を繰下げ受給する手法もあります。繰下げ待機している間は年8.4%という物価上昇に負けない率で受給額を増やせます。日々の生活費の節約なども含め、これら複数の対策の中から自らに可能なものを選び、早めに取り組んでいくことが大切です。
まとめ
年金が増額になっても、物価上昇によって今まで以上に生活費が増えることも想定され、生活は楽になるどころか、さらに苦しくなる可能性があります。そのため、物価上昇に備えた老後資金の対策が必要になるかもしれません。
いずれにしても、老後資金の対策は早く取り掛かることで、効果が出やすくなります。インフレ時の資産の目減りを減らす観点からも、早めに対策を検討してみてはいかがでしょうか。
出典
厚生労働省 令和7年度の年金額改定についてお知らせします
厚生労働省 令和6年度の年金額改定についてお知らせします
厚生労働省 令和5年度の年金額改定についてお知らせします
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2022年(令和4年)平均結果の概要
総務省統計局 家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)平均結果の概要
執筆者:松尾知真
FP2級