退職金「1000万円」で日本一周旅行に行くと言い出した父。貯金は「800万円」ほど。母は「年金生活が始まるのに」と不安そうです…。退職金を思い出づくりに使うのは、無謀なのでしょうか?
総務省統計局の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯は毎月赤字となっています。さらに、年齢を重ねるにつれて医療費や介護費などの負担が増える可能性もあります。では、退職金を思い出づくりのために使い切ってしまった場合、10年後、20年後の家計にはどのような影響が生じるのでしょうか。
本記事では具体的なシミュレーションを使って検証し、まとめていきます。
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目次
老後資産1800万円は平均以下? 高齢者世帯の「平均貯蓄額」と退職金1000万円を使い切るリスク
定年退職という人生の節目に、これまでの労をねぎらうために日本一周旅行を計画する人もいるでしょう。しかし、退職金1000万円をすべて旅行に投資し、手元の貯金を800万円だけにしてしまうのは、今後の老後生活を考えるとやや危険な選択と言わざるを得ません。
まず、日本の高齢者世帯の資産状況と比較してみましょう。金融経済教育推進機構(J-FLEC)が公表している「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)二人以上世帯」によると、世帯主が60代の二人以上世帯における金融資産保有額の平均値は2683万円、中央値は1400万円となっています。
今回のケースでは、退職金と貯金を合わせた当初の総資産は1800万円です。これは平均値より低いものの、中央値は上回っており、決して悲観する額ではないといえます。
しかし、ここから1000万円を取り崩すと、残高は800万円となります。資産額は平均値や中央値を下回る水準となり、その後の医療費や介護費などの支出に備える余力も小さくなる可能性があります。
退職金は一時的な収入ではなく、老後の生活を支える大切な資金です。将来の生活費も見据えながら計画的に活用することが、安定した老後生活につながるといえるでしょう。
年金生活のリアル! 65歳以上の無職世帯の家計は毎月赤字という現実
今回のケースで、お母さまが「年金生活が始まるのに」と不安を抱くのは自然なことです。なぜなら、多くの高齢者世帯において、年金だけの収入では毎月の生活費を賄えず、貯金を取り崩して生活しているからです。
総務省統計局が発表した「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1ヶ月の実収入は約25万4000円であるのに対し、消費支出は約26万4000円、税金などの非消費支出が約3万3000円となっています。
これにより、毎月約4万3000円の不足分が生じることになり、年間で約51万6000円の貯金取り崩しが必要となります。
これが65歳から85歳までの20年間続くと、それだけで約1000万円が家計から消えていく計算になります。もし旅行後に残る貯金が800万円しかなければ、通常の生活を維持するだけで、20年を待たずに手元資金が底をついてしまう可能性が高くなります。
老後の「3大予備費」で800万円は消える? 医療・介護・リフォームに備える最低限の防衛資金
毎月の生活費の赤字に加えて、老後には「突然の大きな出費」が発生するケースも少なくありません。それが、医療費、介護費、リフォーム費の「3大予備費」です。旅行後に残る800万円は、これらの一時的なリスクに対応するための防衛資金として、本来は手をつけないほうがよいお金といえます。
公益財団法人生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」によると、介護が必要になった場合の住宅改造や介護用ベッドの購入など、一時的にかかった費用の合計は平均47万円、月々の介護費用は平均9万円となっています。
さらに、高齢期になれば持病や入院のリスクが高まり、医療費の自己負担が増える傾向にあります。築年数が経過した自宅の外壁塗装や水回りの修繕には、一度に200万~300万円単位のリフォーム費用がかかることも珍しくありません。
このように考えると、残された800万円の貯蓄も決して十分な余裕があるとは言い切れません。住宅の修繕や医療費、介護費などの支出が重なった場合には、想定以上のペースで資産が減少する可能性もあるでしょう。
親の思い出づくりと安心できる老後を両立させる方法
お父さまの「日本一周」という夢を完全に否定する必要はありませんが、1000万円を一度に使い切る計画は一度考え直す余地があるといえます。大切なのは、お父さまの思い出づくりとお母さまの安心感を両立させるための「妥協案」を家族で話し合うことです。
例えば、旅行の総予算を300万円に設定し直してみる方法が挙げられます。退職金1000万円のうち300万円を旅費に充て、残りの700万円と現在の貯金800万円を合わせれば、手元には1500万円の老後資金が残ります。
これだけの手元資金を維持できれば、毎月の年金の赤字補てんや、将来の医療・介護リスクへの備えとしても一定の安心感を保つことができるでしょう。
一度に長期間かけて日本を一周するのではなく、春は北海道、秋は九州といったように、数年間に分けてぜいたくな小旅行を繰り返す「分割型の日本一周」にすれば、体力的な負担も軽減されます。
お金の不安を抱えたまま旅に出るよりも、将来の生活基盤をしっかりと確保した上で、無理のない範囲で思い出づくりを楽しむことが、夫婦2人の充実した老後生活につながるといえるでしょう。
出典
金融経済教育推進機構(J-FLEC) 家計の金融行動に関する世論調査 2025年 二人以上世帯 各種分類別データ(令和7年) 4 金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)
総務省統計局 家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要 II 総世帯及び単身世帯の家計収支 <参考4> 65歳以上の無職世帯の家計収支(二人以上の世帯・単身世帯) 図1 65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢者無職世帯)の家計収支 -2025年-(18ページ)
公益財団法人生命保険文化センター 2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査 第I編 2人以上世帯 第II部 生活保障に対する意識 2.生活保障に対する考え方 (5)世帯主または配偶者が要介護状態となった場合の公的介護保険の範囲外費用に対する経済的備え (エ)介護経験 (e)介護費用(179~180ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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