「年金は75歳まで繰下げるのがお得」これって本当?
配信日: 2019.02.18 更新日: 2019.06.28
来たる「人生100年時代」に向けて、元気な高齢者にはまだまだ働いてもらい、年金財政の維持に貢献してもらおう、という狙いが伺えます。
執筆者:加藤啓之 (かとう しげゆき)
FP横浜オフィス加藤 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、1級DCプランナー
日本証券アナリスト協会検定会員、1級証券外務員
大手資産運用会社、大手企業年金基金で勤務ののち独立。
資産運用、iDeCo加入等を中心に個人相談を展開。
企業の退職金制度のコンサル、確定拠出年金制度の導入支援、独自性のある継続教育など法人ビジネスも展開。
https://fpyokohamakato.amebaownd.com/
公的年金の受給開始年齢
公的年金の受給開始は原則65歳ですが、実は60歳~70 歳の間で、月単位で選ぶことができます。
65 歳になる前に受け取ることを「繰上げ受給」、遅らせることを「繰下げ受給」と言い、繰上げると年金額は65歳で受給開始するより1ヶ月につき0.5%ずつ減額、繰下げると1ヶ月につき0.7%ずつ増額されます。
したがって、60歳で受給開始すると65歳で開始するより30%少なく、70歳だと42%多くなり、その受給水準は生涯変わりません。
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繰下げ受給の実態
1ヶ月につき0.7%ずつ増額されるということは、年間では8.4%も増額されることになります。預金金利が20年以上も1%を下回っているわが国の現状においては、かなりお得な制度です。
しかも、物価の上昇による実質的な価値の損失に対する心配は、ハイパーインフレーションでも来ない限り必要ありません。
これほどお得な制度ではありますが、実際に繰下げ受給を利用している方は、厚生年金受給資格者で1.0%、国民年金受給資格者で1.4%と、いずれも1%程度です。
なぜ繰下げ受給は利用されないのか
厚生労働省は、現在60代後半の受給資格者が繰下げ受給を利用しない理由について、60代前半からもらえる特別支給の老齢厚生年金があるためと分析しています。
では、現在の50代はどうでしょう。この世代も繰下げ受給を利用しない人が多くなると予想されています。その理由はなんでしょうか。
・国の年金制度への不安
公的年金制度はしばしば改革が施されてきましたが、支給額・支給開始年齢は総じて受給者にとって悪い方向にしか変更されてきませんでした。そうした歴史から、もらえるうちにもらっておこうという考え方が定着しています。
・82歳まで生きているという確信がない
物価の変動や所得税、保険料負担、加給年金や在職老齢年金などを考慮せずに単純計算すると、70歳まで繰下げた場合、82歳よりも長く生きれば生涯の受給総額は65歳から受給するよりも多くなると試算できます。
しかしながら、65歳時にどんなに健康であろうと、82歳まで健康でいられるという確証を持てる人は、まずいないと思います。
75歳まで繰下げる人はいないだろう
75歳まで繰下げた場合、70歳以降も増額率が0.7%であるならば、89歳より長く生きれば受給総額は多くなると試算できます。この増額率も増やすことが検討されているようですが、それでも分岐年齢は80代後半となるはずです。
現在の60代は昭和の時代と比べて、おおむね健康で就労意欲も高いと言われています。しかし、それでも80代後半まで健康でいられると確信できる人はやはり少ないはずです。
「人生100年時代」という言葉がもてはやされているからといって、長生きするリスクに備えて75歳まで繰下げる人はほとんどいないと思われます。
結局、75歳までの繰下げ受給は、年金財政を安定させるために支給を先延ばしするという政策でしかないでしょう。決して受給者本位の制度改革ではないことを認識していただければ幸甚です。
執筆者:加藤啓之 (かとう しげゆき)
FP横浜オフィス加藤 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、1級DCプランナー