更新日: 2021.08.16 その他年金

「老齢年金は早くもらったほうが良い」は正しいのか

執筆者 : 北山茂治

「老齢年金は早くもらったほうが良い」は正しいのか
「老齢年金は早く、元気なうちにもらって使いたい」と、60歳まで繰上げして受給しようと考える人もいらっしゃいます。では、本当に年金が必要なのはいつでしょうか?
北山茂治

執筆者:北山茂治(きたやま しげはる)

高度年金・将来設計コンサルタント

1級ファイナンシャルプランニング技能士、特定社会保険労務士、健康マスターエキスパート
大学卒業後、大手生命保険会社に入社し、全国各地を転々としてきました。2000年に1級ファイナンシャルプランニング技能士資格取得後は、FP知識を活用した営業手法を教育指導してきました。そして勤続40年を区切りに、「北山FP社会保険労務士事務所」を開業しました。

人生100年時代に、「気力・体力・財力3拍子揃った、元気シニアをたくさん輩出する」
そのお手伝いをすることが私のライフワークです。
ライフプランセミナーをはじめ年金・医療・介護そして相続に関するセミナー講師をしてきました。
そして元気シニア輩出のためにはその基盤となる企業が元気であることが何より大切だと考え、従業員がはつらつと働ける会社を作っていくために、労働関係の相談、就業規則や賃金退職金制度の構築、助成金の申請など、企業がますます繁栄するお手伝いをさせていただいています。

HP: https://www.kitayamafpsr.com

老齢年金の繰上げをするとどうなる?

男性なら昭和36年4月2日以降生まれ、女性なら昭和41年4月2日以降生まれの方は、特別支給の老齢厚生年金がなくなり、65歳から本来の老齢厚生年金と老齢基礎年金がもらえます。
 
令和4年度から昭和37年4月2日生まれ以降の方は、繰上げ請求した時の受給年金額の繰上げ1ヶ月当たりの減額率が0.5%から0.4%となり、5年間繰り上げた場合、老齢基礎年金の受給額が30%の減額から24%の減額に変わります。「それなら、老齢年金は元気なうちにもらって使いたい」と、60歳まで繰上げしようと考える方もいらっしゃるでしょう。
 
しかし、よく考えてみてください。本当に年金が必要になるのはいつでしょうか? 年金は元気ではなくなったとき、つまり健康でなくなった時に必要であるという考え方もあるのではないでしょうか。
 
病気になってからも人生が続き、家族などの介護を受ける人も少なくありません。 そうなった時、もらえる年金が繰上げた年金額、いわゆる本来65歳からもらえるべき年金額から30%(24%)減額された老齢年金だけだったらどうなるでしょう。介護をする家族などが金銭的に困らないよう、本当に繰上げしても問題ないか検討する必要があるかもしれません。
 
施設に入るにしても、金銭的な負担はとても大きなものです。もちろん、「早く元気なうちにもらって使う」ことも本人の自由ですが、健康でなくなった時に金銭的負担が大きくなる可能性があることも想定しておきましょう。
 
老齢基礎年金の総額は、繰上げして60歳から支給割合70%でもらった場合と、65歳から支給割合100%でもらった場合、累計額が同じになるのは76歳8ヶ月頃です。
 
これ以降は65歳からもらった方のほうが増えていきます。他に収入を得る術がなくなった時に、入ってくる年金が少しでも多いほうが本人も周りの人も助かるかもしれません(減額率が0.4%の場合は、80歳10ヶ月で老齢基礎年金の総額が同じになります)。
 

「病弱だから老齢年金を繰上げる」は危険かも?

病弱な方で、年金受給ができる65歳になる前に亡くなったら損だから、老齢年金を60歳からもらおうと思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、持病を持っている方が長生きできないとは、一概にはいえません。
 
持病を抱えている方は、逆に「老齢年金を繰上げるべきでない人」と筆者は考えます。例えば、糖尿病の合併症で人工透析患者になった場合に障害年金(※1)をもらえるのですが、その時点で老齢年金を繰上げていると請求できないこともあります。
 

繰上げするとできなくなること

繰上げ請求をすると、次のようなことができなくなりますので注意してください。
 

(1)繰上げ請求を取り消すこと
(2)国民年金に任意加入すること
(3)保険料を追納すること
(4)寡婦年金(※2)を受けること(国民年金のみ加入の方)
(5)障害状態になった時、障害基礎(厚生)年金を受けること
(6)加給年金は繰上げ支給の対象にならない

 
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り上げをする必要があります。
 
年金の繰上げは安易に行うのではなく、自身の健康状態やもしものことを想定して、よく考えてから実行するとよいでしょう。また、年金だけに頼るのではなく、健康なうちは少しでも長く働くなどして、健康でなくなったときに備えることも大切なことです。
 
(※1)「障害基礎年金とは」
国民年金加入中、または20歳前に初診日がある病気やけががもとで一定以上の障害が残ったときに受けられる障害年金です。20歳以上で国民年金加入中が初診日の場合は、それまでの保険料の納付状況が間われます。1級と2級があり、2級は老齢基礎年金の満額と同額、1級はその1.25倍です。
 
(※2)「寡婦年金とは」
国民年金の第一号被保険者として10年以上国民年金保険料を納め続けた夫が、老齢基礎年金を受ける前に亡くなった時、婚姻期間(事実婚含む)10年以上の妻は、夫が65歳からもらえるはずだった老齢基礎年金額の75%を、60歳から65歳までもらえます。ただし、妻自身が老齢基礎年金を繰上げている場合は、もらえません。
 
※2021/08/16 記事を一部修正いたしました。 
 
執筆者:北山茂治
高度年金・将来設計コンサルタント

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