更新日: 2021.10.12 厚生年金

老後の働きすぎに注意?年金支給停止の基準とは

執筆者 : 辻章嗣

老後の働きすぎに注意?年金支給停止の基準とは
老齢厚生年金を受給しながら厚生年金の被保険者として働く方には、在職老齢年金制度が適用され、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて年金の一部、または全部が支給停止となる場合があります。

今回は、在職老齢年金制度について詳しく解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

老齢年金の仕組み

1.老齢厚生年金の仕組み

わが国の老齢年金制度は、下図のように老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建て構造になっており、原則65歳から年金が支給されます。
 
厚生年金は、被保険者期間が20年以上ある方が65歳に到達した時点で、その方に生計を維持されている65未満の配偶者や一定の年齢以下の子がいる場合に加給年金が加算されます(※1)。
 

 
また、厚生年金では当分の間、下表の年齢(受給開始年齢)から65歳になるまで「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます(※1)。
 

 

2. 在職老齢年金制度とは

在職老齢年金制度とは、老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金の被保険者(適用事業所に常時使用される70歳未満の方)として仕事を続けている場合や、70歳以上の方が厚生年金の適用事業所で働いている場合において、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額に応じて年金の一部、または全部が支給停止となる制度です(※1)。
 
在職老齢年金の算定においては、老齢年金の額として基本月額が、給与や賞与の額として総報酬月額相当額が使用されます(※1)。
 
(1)基本月額
基本月額とは、加給年金額を除いた老齢厚生年金、または特別支給の老齢厚生年金の月額をいいます。会社員と公務員の勤務歴があるなど、複数の老齢厚生年金がある場合は全てを合計した金額から算出した月額となります。
 
基本月額=老齢厚生年金額÷12
 
(2)総報酬月額相当額
総報酬月額相当額とは、標準報酬月額に、1年間の標準賞与額を12で割った額を加えたものです。
 
総報酬月額相当額=標準報酬月額+(1年間の標準賞与額÷12)
 
標準報酬月額とは、厚生年金の被保険者が受け取る給与(基本給のほかに、残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定するもので、毎月の保険料の計算に用いられています。
 
また、標準賞与額とは、実際に支給される税引き前の賞与の額から1000円未満の端数を切り捨てたもので、1回の支給につき150万円が上限となっています(※2)。なお、総報酬月額相当額は、年収を12で割って概算することができます。
 
在職老齢年金制度は、「60歳から65歳になるまで」と「65歳以降」で異なりますので、それぞれについて以下で説明します。
 

60歳から65歳になるまでの在職老齢年金

1. 在職老齢年金の計算方法

60歳から65歳になるまでの在職老齢年金は、下図の手順で計算します。
 

 
基本月額(上図のA)と総報酬月額相当額(上図のB)の合計が28万円以下であれば、年金は全額支給されます。AとBの合計額が28万円超であれば、総報酬月額相当額(B)が47万円以下であるか否か、基本月額(A)が28万円以下であるか否かによって用いる計算式が異なります。
 
なお、計算値がマイナスになる月の年金は全額支給停止されます。
 

2. 年金が支給停止となる年収の目安

下の表は、基本月額(A)と総報酬月額相当額(B)から支給される年金月額の目安です。
 
例えば、基本月額が12万円(年額144万円)の方の場合、総報酬月額相当額が15万円(年収180万円相当)までであれば全額支給されますが、20万円(年収240万円相当)になると一部が、40万円(年収480万円相当)になると全額が支給停止されます。
 

 

65歳以降の在職老齢年金

1. 在職老齢年金の計算方法

65歳以降の在職老齢年金は下図のとおり、基本月額(A)と総報酬月額相当額(B)の合計が47万円以下であれば年金は全額支給されます。合計が47万円を超える場合は、合計額と47万円の差額の半分が支給停止されます。
 
なお、計算値がマイナスになる月の年金は全額支給停止されます。
 

 

2. 年金が支給停止となる年収の目安

下の表は、基本月額(A)と総報酬月額相当額(B)から支給される年金月額の目安です。
 
例えば、同じ基本月額12万円(年金額144万円)の方は、総報酬月額相当額が35万円(年収420万円相当)までであれば全額支給されますが、40万円(年収480万円相当)になると一部が、60万円(年収720万円相当)になると全額が支給停止されます。
 

 

年金制度改正

年金制度改正に伴い、令和4年4月からは、60歳から65歳になるまでの特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度において、年金の支給が停止される基準である基本月額(A)と総報酬月額相当額(B)の合計額が28万円から47万円に緩和され、65歳以降の在職老齢年金と同様の扱いとなります(※3)。
 
なお、47万円は令和2年度の額であり、今後変更されることもあります。
 

まとめ

老齢厚生年金を受給している方が厚生年金の被保険者として働くと、在職老齢年金制度により年金の一部、または全部が支給停止となる場合があります。
 
また、これまでは60歳から65歳になるまでに支給される特別支給の老齢厚生年金について、その基準が厳しく規定されていましたが、令和4年4月からは65歳以降に適用される在職老齢年金制度と同様になります。
 
出典
(※1)日本年金機構 老齢年金ガイド 令和3年度版
(※2)日本年金機構 厚生年金保険の保険料
(※3)厚生労働省 年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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