更新日: 2021.12.24 その他年金
年金は本当に少なくなってしまうのか? マクロ経済スライドを解説
公的年金は現在、マクロ経済スライドという方式が採られています。今回は、このマクロ経済スライドについて解説します。
執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
物価スライドからマクロ経済スライドへ
日本の年金制度は、企業の従業員を対象とした厚生年金が先に施行されました。全国民の基礎となる国民年金は厚生年金より後に施行され、1961年(昭和36年)に国民皆年金の体制がスタートしています。
当時の日本は経済成長が始まっており、物価も上昇していたことから、その後の1973年(昭和48年)、公的年金に物価スライドと賃金再評価が導入されました。このときの物価スライド制は、物価変動率が5%を超えて変動した場合、変動率を基準として年金額を改定するという方式が採られていました。
物価が4%上昇しても年金額は変わらず、5%以下の物価変動であった場合には実質の年金額は目減りしていたことになりますが、この問題に対して1989年(平成元年)、ようやく完全自動物価スライドが採用されています。
1991年(平成3年)のバブル崩壊以降の「失われた20年」といわれる時代では、物価の上昇も低くなり、1999年(平成11年)以降は物価の下落も目立つようになりました。ただし、このときには年金額は完全に物価に連動させず、物価が下落しても物価スライドは特例法により締結されていました。
公的年金に対しては5年に一度、定期的な健康診断のように、給付と保険料負担のバランスが取れているか確認する「財政検証」が行われます。2004年(平成16年)の財政検証で、今後の人口の減少や高齢化などを踏まえ、現在採用されているマクロ経済スライドが導入されました。
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マクロ経済スライドとは
2004年までの物価スライドは、物価の変動に合わせて年金も調整するという制度ですが、現在のマクロ経済スライドは物価上昇、もしくは賃金上昇に合わせて改定率を調整し、その後にスライド調整率で年金の給付水準を調整することになります。
スライド調整率は「公的年金全体の被保険者数の減少率の実績」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(-0.3%)」を足して計算されます。
2021年度(令和2年度)の年金改定では、賃金上昇率(0.3%)に合わせて2020年度(令和元年度)から年金額を増加させた後、スライド調整率(-0.1%)を乗じることで年金額は0.2%の上昇にとどまりました。
令和2年度の新規裁定者(67歳以下の方)の年金額の例
令和元年度(月額) | 令和2年度(月額) | |
---|---|---|
国民年金 (老齢基礎年金(満額):1人分) |
6万5008円 | 6万5141円(+133円) |
厚生年金 (夫婦2人分の国民年金を含む標準的な年金額) |
22万226円 | 22万724円(+458円) |
※厚生労働省 「令和2年度の年金額改定についてお知らせします」より筆者作成
※厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」より筆者作成
マクロ経済スライドは全ての状況で採用されるわけではなく、賃金・物価の上昇が小さいときや賃金・物価が下落したときには、その状況に応じて減少額が調整されます。
例えば、賃金・物価の上昇が小さく、スライド調整率を差し引いたときに前年度の年金額よりも少なくなる場合は、前年度の給付水準までの調整にとどめることになっています。
また、賃金・物価が下落した場合、下落分は年金額に反映されますが、スライド調整率による調整は行われません。
スライド調整がされなかった分に関しては、キャリーオーバー制度として未調整分を翌年度以降に繰り越し、マクロ経済スライドで計算された年金額にスライド調整率以上の上昇があった場合には調整が行われます。
マクロ経済スライドの問題点
マクロ経済スライドでは、賃金と物価の変動率が使われますが、ここに問題点があります。賃金・物価の変動率は同じではないため、どちらかの変動率を採用するのですが、賃金より物価の上昇が大きい場合には賃金上昇率が採用されます。
物価が上昇していても年金額は連動せず、物価上昇より低い上昇率となり、さらにスライド調整率が差し引かれるので、年金額は増えたとしても物価の上昇には対応できず、実質では年金額は目減りすることになります。
マクロ経済スライドはいつまで続くのか?
マクロ経済スライドは恒久的に導入されているわけではなく、今後終了することが決まっています。
2019年(令和元年)の財政検証では、基礎年金部分は2047年度に、厚生年金部分は2025年度に終了となっていますが、基礎年金と厚生年金の終了時期を統一するという案も出てきているようです。
ただし、この終了時期についても5年ごとの財政検証で見直していくことになり、不確実なものとなっています。
まとめ
将来、年金額が少なくなると心配している人は多いと思います。実際の年金額は増える可能性がありますが、物価上昇に対しての増加分が少ないことから、年金額の水準が低くなるということは考えられます。
また、物価の上昇よりも現役世代の賃金の上昇が低ければ年金額の増加も少なくなり、年金額が増えても生活が楽にならない、逆に苦しくなるということが起こるかもしれません。
年金について考える場合、お金を額面でとらえるのではなく、実質の価値で考えていくことが大切でしょう。
※2021/12/24 タイトルを修正いたしました。
出典
厚生労働省 令和2年度の年金額改定についてお知らせします
厚生労働省 いっしょに検証!公的年金
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー