更新日: 2022.02.26 その他年金
死亡当時年収600万円の会社員の妻。夫の死後、遺族年金はいくらもらえる?
今回は、死亡当時の年収が600万円の会社員の妻に支給される遺族年金の額について、具体的に解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
遺族年金の受給要件
わが国の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建てになっており、遺族年金にも図表1のように、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2種類があります(※1、2)。
【図表1】
1. 遺族基礎年金の受給要件
国民年金の被保険者で、保険料納付要件を満たしている夫が死亡したとき、夫に生計を維持されていた子がいる妻には遺族基礎年金が支給されます。
生計を維持されていた方には、亡くなった方と生計を同一にし、原則として年収850万円未満の方が該当します。
また、遺族年金における「子」とは、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方をいいます。
従って、子どもが18歳到達年度の末日(障害の状態にある場合は20歳)に達した時点で、遺族基礎年金の支給は終了します。
2. 遺族厚生年金の受給要件
会社員など厚生年金の被保険者であった夫が死亡したとき、夫に生計を維持されていた妻には遺族厚生年金が支給されます。
この際、妻の年齢は問わず、30歳未満で子がいない方は、支給期間が5年間に限られます。また、子がいる妻には、子が18歳に達する年度の末日(障害の状態にある場合は20歳に達した日)まで、遺族基礎年金が合わせて支給されます。
なお、次のいずれかに該当する妻には遺族厚生年金に加え、40歳から65歳になるまで中高齢寡婦加算があります。
(1)夫の死亡時に40歳以上65歳未満で、生計を同一にする子がいない妻
(2)遺族基礎年金を受けていた妻が、子が18歳到達年度の末日(障害の状態にある場合は20歳)に達したため、遺族基礎年金を受給できなくなったとき
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遺族年金の年金額
次に、遺族基礎年金と遺族厚生年金の年金額について解説します。
1. 遺族基礎年金の年金額
子がいる妻が受給する遺族基礎年金額は、図表2のとおりとなります。なお、年金額は物価上昇率などを反映して、毎年度見直されます。
【図表2】
家族構成 | 年金額(令和3年度額) |
---|---|
妻と子1人 | 78万900円+22万4700円=100万5600円 |
妻と子2人 | 78万900円+22万4700円×2=123万300円 |
妻と子3人 | 78万900円+22万4700円×2+7万4900円=130万5200円 ※3人目以降、子ども1人当たり7万4900円が加算。 |
※日本年金機構 「遺族年金ガイド 令和3年度版」を基に筆者作成
2. 遺族厚生年金の年金額
妻が受給する遺族厚生年金額は、死亡した夫の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額になります。
平成15年4月以降の、厚生年金の加入期間に係る夫の報酬比例部分の年金額は、以下の式で求められます(※3)。なお、平成15年3月以前の加入期間に係る報酬比例部分の年金額は計算方法が異なりますが、ここでは説明を省略します。
平均標準報酬額×0.005481×平成15年4月以降の加入期間の月数
平均標準報酬額とは、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割った額です。便宜的に、加入期間の平均年収を12月で割って概算することができます。
また、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月と見なして計算します。
従って、平成15年4月以降の加入期間に係る遺族厚生年金の年金額は、以下の式で計算することができます。
遺族厚生年金の年金額=平均標準報酬額×0.005481×加入期間の月数×3/4
なお、令和3年度の中高齢寡婦加算については、58万5700円となっています。
受給例による遺族年金の年金額
ここからは同年齢の夫婦を例に、夫の死亡当時の妻の年齢に応じた遺族年金の年金額を確認していきます。
なお、モデルとなる会社員の夫は20歳で就職し、年収は就職時360万円、死亡時600万円であったものと仮定しています。
また、夫の報酬比例部分の計算では、加入期間がすべて平成15年4月以降であったものとして、平均標準報酬額には、就職時と死亡時の年収を合わせた額を平均した480万円を12月で割った40万円を用いています。
1. 妻が30歳未満で子がいなかった場合
例えば、夫が29歳で死亡した時点で夫婦に子がいなかった場合は、29歳の妻には遺族基礎年金は支給されず、遺族厚生年金49万3290円が5年間支給されます。
夫の厚生年金の加入期間は300月(25年)未満の約9年となりますので、遺族厚生年金の計算では加入期間が300月とされます。
遺族厚生年金の年金額=40万円×0.005481×300月×3/4=49万3290円
もし、年収がモデルケースの半分で就職時180万円、死亡時300万円の場合は、遺族厚生年金も半額の24万6645円となります。
2. 妻が30歳で子が1人いる場合
夫が30歳で死亡した時点で、30歳の妻に0歳の子どもが1人いる場合は、子どもが18歳になる年度末まで遺族基礎年金100万5600円が妻に支給されるとともに、合わせて遺族厚生年金49万3290円が生涯にわたり支給されます。
夫の厚生年金の加入期間は約10年となりますので、遺族厚生年金の加入期間は300月として計算されます。
また、子どもが18歳になった年度末の時点で妻は40歳を超えるため、遺族基礎年金の支給が終了してから65歳になるまで、中高齢寡婦加算額の58万5700円が遺族厚生年金に加算されます。
3. 妻が39歳で子がいなかった場合
夫が39歳で死亡した時点で夫婦に子がいなかった場合は、39歳の妻には遺族厚生年金49万3290円が生涯にわたり支給されます。
夫の厚生年金の加入期間は約19年なので遺族厚生年金の計算上、加入期間は300月とされます。また、夫の死亡時に妻は40歳を超えていないため、中高齢寡婦加算はありません。
4. 妻が50歳で子が独立していた場合
夫が50歳で死亡した時点で子が独立していた場合は、50歳の妻には生涯にわたって遺族厚生年金59万1948円が支給されます。
この際、夫の厚生年金の加入期間が30年と0ヶ月であったとすると、遺族厚生年金の計算では加入期間が360月となります。
遺族厚生年金の年金額=40万円×0.005481×360月×3/4=59万1948円
また、夫が死亡した時点で妻は40歳を超えているため、このケースでは妻が65歳になるまで中高齢寡婦加算58万5700円があります。
まとめ
会社員など厚生年金の被保険者であった夫が亡くなったときには、その妻に遺族厚生年金が支給されるほか、子どもがいる場合は年齢によって遺族基礎年金を受け取ることができます。
遺族厚生年金の額は、夫の厚生年金加入期間の年収と勤務年数により決まります。ただし、勤務年数が25年未満の場合は厚生年金に25年間加入していたものとして算定され、一定の要件を満たす妻が受け取る遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間で中高齢寡婦加算が加わります。
出典
(※1)日本年金機構 遺族年金ガイド 令和3年度版
(※2)日本年金機構 公的年金の種類と加入する制度
(※3)日本年金機構 年金用語集より は行 報酬比例部分
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士