障害年金のウソ? ホント?(18)「繰り上げ受給はリスクが大きい?」

配信日: 2022.05.11

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障害年金のウソ? ホント?(18)「繰り上げ受給はリスクが大きい?」
障害年金の相談を受けていると、ちょっとした思い違いをしている人や、誤ったうわさ話を信じ込んでいる人が少なくないことに気づきます。そうした人たちは、後になって「しまった!」となりかねません。
 
そんなことにならないために、あらかじめ正しい知識を身に付けておきましょう。第18回は「繰り上げ受給はリスクが大きい?」です。
和田隆

執筆者:和田隆(わだ たかし)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。

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老齢年金を最長5年間早めて受給できる

60歳になると、老齢年金の繰り上げ受給が可能になります。「生活を少しでも楽にしたい」「健康なうちに趣味を楽しみたい」と考えると、つい、繰り上げ受給という誘惑に乗りそうになるかもしれません。しかし、障害年金の相談を受けている者としては、ブレーキをかけたくなります。
 
老齢年金の繰り上げ受給というのは、本来であれば65歳から受給する老齢年金を最長5年間早めて受給するものです。受給のための資格期間が10年以上であれば、手続きができます。
 
早める時期は1ヶ月単位で選択できますので、例えば「60歳3ヶ月から」とか「61歳8ヶ月から」というような選択も可能です。老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給できる場合は、両方を同時に繰り上げなければなりません。
 

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繰り上げ受給のメリットは…

繰り上げ受給のメリットは、次のようなものです。

●早くから受給できるので、それだけ生活が楽になるし、より若いうちに年金を活用することができる
 
●早くに亡くなった場合は、普通に65歳から受給する場合や繰り下げ受給をする場合と比べて生涯受給総額が多くなる可能性がある

 

繰り上げ受給のデメリットは…

一方、デメリットは、次のようなものです。種類が多いので、主なものを挙げます。

●毎月の受給額が減額される。減額率は、受給開始を1ヶ月早めるごとに0.5%(1962年4月2日以降生まれの人は0.4%)。このため、60歳ちょうどから受給を始めると、0.5%×60ヶ月で、結局30%(1962年4月2日以降生まれの人は0.4%×60ヶ月で24%)の減額になる
 
●長生きをした場合は、普通に65歳から受給する場合や繰り下げ受給をする場合と比べて生涯受給総額が少なくなる可能性がある
 
●繰り上げ受給の取り消しはできないので毎月の受給額の減額は生涯続く
 
●国民年金の任意加入ができない
 
●障害年金の事後重症請求ができない
 
●寡婦年金を受給できない

 

受給額に関心が向くのだが…

通常、繰り上げ受給を検討するときに最も関心が向くのは、毎月の受給額が下がることではないでしょうか。得をするのか、損をするのか、迷うところです。しかし、受給額が下がることは、あらかじめわかっていることですから覚悟もあるはずで、リスクというほどのことではないでしょう。本当のリスクは、障害年金や寡婦年金が受給できなくなる場合があることだと思います。
 

65歳になったとみなされる

老齢年金の繰り上げ受給をすると、年金制度上では、65歳になったとみなされます。ここが重要です。
 
障害年金の事後重症請求は通常、65歳になるまでならできますが、老齢年金の繰り上げ受給をすると、65歳になったとみなされるのでこの権利が使えません。既に持病のある方は、ご注意ください。
 
また、通常は、60歳から65歳になるまでの被保険者ではない期間に初診日がある傷病で2級以上の障害状態になれば、3分の2以上などの保険料納付要件を満たしていることは必要ですが、障害基礎年金を請求することができます。
 
ところが、老齢年金の繰り上げ受給をすると、65歳になったとみなされるのでこの権利が使えません。ただし、初診日と障害認定日が繰り上げ受給の前であれば、障害年金の受給権発生のほうが早かったということで、障害認定日請求をすることができます。
 
なお、繰り上げ受給をしていても、厚生年金保険の被保険者であって、この被保険者期間中に初診日があるならば、障害認定日請求をすることができます。
 
かなり複雑ですね。該当するかどうか微妙なときは、年金事務所や社会保険労務士などの専門家にお尋ねください。
 

寡婦年金も同様の扱い

寡婦年金は、夫を亡くした妻が一定の条件のもと、60歳から65歳になるまでの間に受給できるもので、遺族給付の一種です。老齢年金の繰り上げ受給をすると、寡婦年金が受給できなくなるのは、障害年金の場合と同様に、65歳になったとみなされるからです。
 
老齢年金の繰り上げ受給を申し込む場合は、年金事務所の窓口やパンフレットなどでリスクがしっかり説明されるのですが、後になって「やめておけばよかった」と悔やむ人が少なくないようです。「繰り上げ受給はリスクが大きい?」の「ウソ・ホント」は、もちろん「ホント」です。
 
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

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