障害年金のウソ? ホント?(19)「重症化したときに遡って受給できる? 」

配信日: 2022.06.01

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障害年金のウソ? ホント?(19)「重症化したときに遡って受給できる? 」
障害年金の相談を受けていると、ちょっとした思い違いをしている人や、誤ったうわさ話を信じ込んでいる人が少なくないことに気づきます。そうした人たちは、後になって「しまった!」となりかねません。
 
そんなことにならないために、あらかじめ正しい知識を身に付けておきましょう。第19回は「重症化したときにさかのぼって受給できる?」です。
和田隆

執筆者:和田隆(わだ たかし)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。

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「障害年金の制度がおかしい」とおかんむり

「障害年金の制度がおかしい」。年金事務所での相談から帰ってきたというAさんがおかんむりです。話をうかがって、事情が分かりました。
 
Aさんの配偶者は、10年前に健康診断で異常値を指摘され、初めて受診。糖尿病でした。最初の2~3年は軽症だったのですが、やがて、腎臓疾患になり、3年前から人工透析を受けています。
 
2級の障害年金が受給できそうだと聞いて年金事務所に相談に行くと、請求した翌月分から受給できると言われたそうです。今月中に請求すると、受給は来月分からです。「でも、人工透析は3年前からなのだから、3年前にさかのぼって受給したい」と粘ったのですが、ダメでした。
 
「3年前の人工透析を始めたときに請求されていたなら……」というようなことを言われたとのことで、「制度が悪い。まるで、責任転嫁じゃないですか」とご不満でした。その気持ち、分からないでもありません。
 

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障害年金の請求方法は3つ

障害年金の請求方法をおさらいしておきましょう。障害認定日請求と事後重症請求、それに「初めて2級以上の請求」の3つの請求方法があります。
 
障害認定日請求は、障害認定日に一定の障害状態にあったとして請求するものです。障害認定日が受給権発生日になり、その翌月分から受給できます(ただし、5年の時効があります)。
 
事後重症請求は、障害認定日に一定の障害状態ではなかったけれど、その後、重症化した場合に請求するものです。請求の受付日が受給権発生日になり、その翌月分から受給できます。
 
障害認定日当時に重症だったにもかかわらず、当時の診断書が入手できないために、やむなく事後重症請求をする場合もあります。
 
「初めて2級以上の請求」は、障害等級の2級に該当しない程度の障害状態にある人に新たに別の障害が生じ、それぞれの障害を併合すると2級以上の障害状態となる場合に請求するものです。
 
2級以上の障害状態になると確認できた日(診断書の現症日)が受給権発生日となります。ただし、受給は請求月の翌月分からです。
 

3年前に事後重症請求をしておけば……

Aさんの配偶者は、人工透析が始まった3年前に事後重症請求をしておけば、多分、3年前から障害年金が受給できていたと思われます。障害年金の受給について定められた障害認定基準に「人工透析療法施行中のものは2級と認定する」と明記されているからです。
 
問題は、人工透析が始まったときに、Aさんの配偶者もAさんも、障害年金を受給できそうだから手続きをしようと思わなかった点です。制度をよくご存じなかったのかもしれません。
 
だからと言って、その責任がAさんの配偶者やAさんだけにあるとは言えないと思いますが、ともかく、法律や障害認定基準に規定がある以上、やむを得ません。結局、不利益を被るのはAさんの配偶者やAさんとなります。
 

受給が始まると、比較的に柔軟な請求が可能に

このように、障害年金の制度は、あまり柔軟性があるとは言えませんが、いざ障害年金の受給が始まると、その後の請求では、比較的に自主性を発揮することができるようになります。その後の請求というのは、額改定請求と支給停止事由消滅届です。
 

額改定請求は1年を経過しなくてもよい場合がある

額改定請求は、症状が重くなった時に上級を目指して行います。障害状態確認届(更新時の診断書のことです)での審査もあるのですが、更新時を待たずに自発的に行うことが可能です。
 
原則として等級確定から1年を経過するのを待たなければなりませんが、一部の傷病については、障害の状態が明らかに増進したと認められる場合は、1年を経過しなくても請求ができます(※)。
 
上級の年金額を受給できるのは、請求月の翌月分からです。したがって、請求をちゅうちょしていると、損をすることになります。
 

支給停止事由消滅届は一定の期間を経過しなくてもよい

支給停止事由消滅届は、症状が軽くなったとして障害年金の支給を停止された人が再び重症化したときに提出します。名称は「消滅届」ですが、機能的には「支給再開請求」という感じです。
 
この届けは、支給停止になってから一定の期間を経過しなくても手続きをすることができます。認められると、支給停止事由が消滅した日(診断書の現症日)の翌月分から受給を再開することができます。
 
「重症化したときにさかのぼって受給できる? 」の「ウソ・ホント」は、裁定請求の場合は、そうした請求方法がないので「ウソ」といえるでしょう。
 

出典

(※)日本年金機構のパンフレット「障害年金の額改定請求のご案内」
 
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

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