【年金相談】結婚します。遺族年金を受け取っているのですが、注意することはありますか?
配信日: 2022.06.22
FPが詳しく解説します。
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
結婚すると遺族年金は支給停止になる
遺族年金を受給している方が結婚したときは、年金を受ける権利がなくなります。このことを「失権」といいます。
失権の事由に該当した日から、遺族基礎年金と遺族厚生年金それぞれ、定められた期間内に届け出が必要です(※1)
【図表1】
図表1にあるとおり、婚姻届を出さない内縁関係でも失権の対象です。
再婚相手と2人で十分な収入があれば問題ありませんが、双方が非正規雇用など生活が不安定な場合は、安定した収入である遺族年金が支給されなくなる影響は大きいはずです。
なお、年金額は以下のとおりです(※2)
子のある配偶者が受け取るとき:77万7800円/年+子の加算額
子の加算額:<1人目および2人目>各22万3800円 <3人目以降>各7万4600円
死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
[なお、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します]
その後離婚したとしても、以前の遺族年金を再び受給はできません。
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遺族年金以外への影響
結婚すると支給されなくなるのは遺族年金だけではありません。ほかにも支給されなくなる関連制度があります(※3)
なお、「寡婦」の名のとおり、いずれも夫を亡くした妻に対する年金や加算であり、夫に対する支給はありません。
1.国民年金の寡婦年金
国民年金の第1号被保険者として保険料納付期間が10年以上ある夫が亡くなったときに、10年以上継続して婚姻関係にあり、生計を維持されていた妻に対して、ほかの要件を満たした場合に60歳から65歳になるまでの期間限定で支給される年金です。
遺族基礎年金は子のいない妻には支給されず、子がいても、その子が年齢要件の上限に達すれば受けられなくなります。国民年金保険料を支払っていたのに、夫は老齢年金を、妻は遺族年金のどちらも受給できないケースを救済する位置付けです。
第1号被保険者期間だけで計算するので、主に夫が自営業や農・漁業だった方が対象です。金額は、夫の死亡前日までの第1号被保険者期間から算出した額の4分の3です。これも結婚すると失権します。
2.遺族厚生年金の中高齢寡婦加算
厚生年金に20年以上加入していた被保険者である夫を亡くした妻が、40歳以上65歳未満の期間に生計を同じくする子がいない場合など、遺族基礎年金の受給要件を満たさない場合に、この期間受給できます。
妻が受け取れるのが遺族厚生年金だけになることから、遺族厚生年金に加算される形で支給されます。2022年度は年額58万3400円で、遺族基礎年金77万7800円の4分の3にあたります。
こちらも結婚すると受け取れません。なお、妻が65歳になると、自分の老齢基礎年金を受給できるため、中高齢寡婦加算はなくなります。
子どもへの支給はどうなる?
遺族年金の支給要件を満たす子もいる場合はどうなるのでしょうか?
この場合、子と遺族年金を受給している親の両方に受給権が発生しているのですが、親が受給しているため、子はその間支給停止の状態となっています。ただし、受給権は残っているのです。
親が結婚して失権したら、子の支給停止が解除されますが、再婚した親と生計を同じくする場合は遺族基礎年金を受給できず、遺族厚生年金のみ受給できます。つまり、世帯としては遺族厚生年金の受給は継続することになります。
一方、祖父母や親戚に預けられるなど、再婚した親と生計が別になるケースでは、子は遺族基礎年金も受け取れます(※2.)。
最後に
遺族年金だけでなく、ほかにも結婚により受け取れなくなる年金や加算があることが分かりました。
ただ、子どもまで含めると、受給権者の要件や受給額の組み合わせは非常に複雑です。老齢年金や障害年金、あるいは労災の場合は、遺族(補償)年金との調整・選択・併給の仕組みもあります。
ここで解説したのは代表的な内容に留まりますので、ぜひ個々のケースに応じて確認してください。
出典
(※1.)日本年金機構 遺族年金を受けている方が結婚や養子縁組などをしたとき
(※2.)日本年金機構 遺族年金(受給要件・対象者・年金額)
(※3.)日本年金機構 遺族年金ガイド 令和4年度版
執筆者:伊藤秀雄
CFP(R)認定者、ファイナンシャルプランナー技能士1級、第1種証券外務員、終活アドバイザー協会会員、相続アドバイザー。