更新日: 2022.09.20 その他年金

障害年金請求のつまずき(2)「初診証明を入手できない」

執筆者 : 和田隆

障害年金請求のつまずき(2)「初診証明を入手できない」
障害年金を請求しよう。そう思って準備を始めたものの、予想していなかった問題に直面して、作業が前に進まないことがあります。つまずいてしまったわけですね。そんなとき、どうしたらよいのでしょうか。具体的に考えてみましょう。第2回は「初診証明を入手できない」です。
和田隆

執筆者:和田隆(わだ たかし)

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。

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入手できない理由は…

初診日とその病院が分かっても、初診証明を入手できない場合があります。障害年金の審査は、基本的に書類審査ですから、受診状況等証明書など初診証明の文書が入手できないと困ってしまいます。入手できない理由には、次のようなものが考えられます。
 

(1)廃院している(休業、解散、倒産を含めます。以下同様)
(2)カルテが保存されていない
(3)頼んでも作成してくれない

 
対策を考えてみましょう。
 

廃院しているときの対策は……

(1)廃院している

帝国データバンクの調査によると、2016 年~2021 年の全国の医療機関の廃院件数は、平均で年間約540件(*1)です。厚生労働省によると、2020年時点の全国の医療機関は約18万施設(*2)ですから、毎年約0.3%の割合で廃院していることがうかがえます。単純計算で、初診日から10年たつと約3%、20年たつと約6%が廃院してしまうことになりますから、初診の医療機関が廃院していても珍しくはありません。
 
この場合の対策として、次の3つが考えられます。
 

(ア)カルテの保存先を調べる
(イ)2番目以降の病院に尋ねる
(ウ)第三者証明を活用する

 

カルテが他の医療機関に管理されていないか

(ア)カルテの保存先を調べる場合

医師法で、医療機関には5年間のカルテ保存義務が定められており、この義務は廃院後も続きます。また、患者の損害賠償請求権が10年間有効であることから、厚生労働省は10年間の保存を呼びかけています。こうした事情から、廃院後のカルテは、他の医療機関に管理を委託するなどの方策が取られることが多く、廃院からあまり年月がたっていない場合は、積極的にカルテを探すとよいでしょう。
 
保健所、医師会、あるいは、同じ診療科目のある近くの医療機関などに尋ねてみましょう。カルテが見つかれば、そのカルテを管理している医療機関などに代理で受診状況等証明書を作成してもらうことも可能です。
 

5年以上前のカルテに記載はないか

(イ)2番目以降の病院に尋ねる場合

請求から5年以上前の日付のカルテに、本人が話した初診の医療機関の最初の受診日が記載されている場合は原則として、この受診日が初診日と認められます。厚生労働省の2015年の通知(*3)によるものです。
 
このため、初診の医療機関が廃院していて、そのカルテが見つからない場合は、2番目の医療機関、3番目の医療機関、と順次問い合わせ、カルテに初診の医療機関について話した記載がないか、調べてもらいましょう。記載があれば、受診状況等証明書を発行してもらい、初診の医療機関についてしっかり書き込んでもらいます。
 
初診の医療機関の紹介状が保存されていれば、さらに有力な資料になりますので、コピーを添付してもらいます。
 

友人、上司、医療関係者らに証言してもらう

(ウ)第三者証明を活用する場合

第三者証明は、友人、上司、医療関係者らいわゆる第三者に文書で証言してもらうものです。この場合は、初診日や初診の医療機関について証言してもらいます。主に、次のような条件(*4)があります。
 

●本人の3親等以内の親族は、証言者になれない。
●証言者は、原則として2人以上必要。ただし、初診日ごろに受診していた医療機関の医療従事者の場合は、1人でよい。
●20歳前障害の場合は第三者証明だけでよいが、20歳後の障害の場合は他に参考資料が必要。ただし、上記の医療従事者の場合は、参考資料は不要。
●証言の内容は、その当時に見舞いなどで直接に見たか、請求者やその家族らから聞いたか、あるいは、請求時からおおむね5年以上前に聞いていたか、など。

 
有効な証言を集めるのは、簡単ではありません。頑張りましょう。
 

既にカルテが処分されているときは…

(2)カルテが保存されていない

初診の医療機関が分かっても、上記のような5年間のカルテ保存義務の関係で、既にカルテが処分されていることがあります。その場合は、通院記録簿や入退院記録簿に記載がないかを尋ねてみて、記載があればコピーを提供してもらいます。医療機関の形態や傷病の種類によっては、初診証明の有力な資料になることがあります。そして、上記の(イ)2番目以降の病院に尋ねる、と(ウ)第三者証明を活用する、を検討してみましょう。
 

受診状況等証明書の必要性を理解してもらう

(3)頼んでも作成してくれない

カルテが保存されていても、受診状況等証明書を作成してもらえない場合があります。事情はさまざまで、例えば、当時受診した傷病と障害年金を請求する傷病との間に因果関係がないと医師が判断しているのかもしれません。医療機関側と率直に話し合いましょう。そして、受診状況等証明書の必要性を理解してもらいましょう。それでもダメな場合は、上記の(イ)2番目以降の病院に尋ねる、と(ウ)第三者証明を活用する、を検討してみましょう。
 
障害年金の請求にあたって、初診証明は重要です。いろいろな方策を考えて取り組みましょう。
 

出典

(*1)帝国データバンク 医療機関の休廃業・解散動向調査(2021 年)2022年1月28日付
(*2)厚生労働省 令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
(*3)厚生労働省通知 障害年金の初診日を明らかにすることができる書類を添えることができない場合の取扱いについて(平成27年9月28日付)
(*4)日本年金機構パンフレット 障害年金の初診日証明書類のご案内
 
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士

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