障害年金請求のつまずき(3)「納付要件を満たさない」
配信日: 2022.10.05
第3回は「納付要件を満たさない」です。
執筆者:和田隆(わだ たかし)
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士
新聞社を定年退職後、社会保険労務士事務所「かもめ社労士事務所」を開業しました。障害年金の請求支援を中心に取り組んでいます。NPO法人障害年金支援ネットワーク会員です。
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目次
保険料の納付要件は……
初診日が分かり、その証明書となる受診状況等証明書を取得できる見込みも立ったのに、保険料の納付要件を満たせないことが分かり、つまずいてしまうことがあります。
保険料の納付要件は次のいずれかを満たす必要があります。
(1)初診日の前日時点で、初診日を含む月の前々月までの被保険者期間に「納付」「免除」「猶予」を合わせた期間が3分の2以上あること
(2)初診日の前日時点で、初診日を含む月の前々月までの直近1年間に「未納」がないこと
ただし、次の点にご注意ください。
●初診日が1991年4月30日以前は、保険料の納付方法が現在と異なるので、判定の方法も異なります。
●「免除」でも部分免除の場合は、免除額を差し引いた額の保険料を納付していなければ「未納」になります。
●(2)は2026年3月31日までの特例です。また、初診日が65歳以上の場合は適用されません。
●(2)の直近1年間には、被保険者ではない期間も含まれます。なお、初診日が60歳以上で、厚生年金保険などの被保険者でなかった場合は、初診日からもっとも近い被保険者月から過去1年間をみます。
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関連する症状で受診したことはありませんか
保険料の納付要件を満たせない場合、その傷病では障害年金の請求ができません。もう一度、落ち着いて初診日を検討してみましょう。検討するのは次のようなことです。
(1)考えていた初診日より前の日に、関連する症状で受診したことはありませんか
障害年金を受給しようとする傷病とそれ以前に受診した関連する症状との間に相当因果関係があれば、関連する症状で受診した日が初診日になる可能性があります。相当因果関係というのは、前の疾病や負傷がなかったなら、後の疾病は起こらなかっただろうと認められる関係です。相当因果関係と認められるかどうかは、まずは、診断書を作成してもらう医師にご相談ください。
社会的治癒の期間がありませんか
(2)社会的治癒の期間がありませんか。あれば、初診日が後ろ倒しになる可能性があります
社会的治癒とは、医学的には完治していないけれども、治療の必要がなく、通常の社会生活を送ることができる状態をいいます。障害年金では、社会的治癒を経て再び症状が悪化して治療を再開したときを初診日とみなして請求することが可能です。
社会的治癒と認められるには、その状況が一定程度継続している必要があります。これまでの認定例でいえば、精神疾患の場合で一般に5年以上とされています。障害年金の請求に際しては、社会的治癒があったことを何らかの方法で証明する必要があります。
請求する傷病は難病ではありませんか
(3)難病の場合などは、傷病名の診断があった日が初診日になることがあります。該当しませんか
難病の場合は、正確な病名が付くまでに多くの病院や診療科を受診していることがあります。このため、初診日の判定が難しく、難病の診断名がついた日が初診日とみなされることがあります。年金事務所等にご相談ください。
障害年金の請求では、一般的に初診日は変更できないとされていますが、上記の3つの場合は、正当な理由がありますから、変更が認められる可能性があります。
「初めて2級」「初めて1級」という請求方法も
上記で「その傷病では障害年金の請求ができません」と書きました。しかし、後から別の傷病が発生した場合は、先に発生していた傷病と併せて請求できる場合があります。「初めて2級」「初めて1級」という請求方法です。
この請求方法で保険料の納付要件が問われるのは、後から発生した傷病の納付要件だけです。先に発生していた傷病の納付要件は不問にされます。例えば、軽度のうつ病で障害年金を請求しようとしたものの、保険料の納付要件が満たせずに請求を断念していた人が、その後は保険料の納付に努めていたところ、今度は足が不自由になり、精神障害と肢体障害を併せて障害等級2級に該当したというような場合です。
集めた資料は保存しておきましょう
ただし、「初めて2級」「初めて1級」の請求をするには次の3点を満たすことが条件です。
●先の障害が3級以下の軽度のものであること
●後の障害について保険料の納付要件を満たしていること
●65歳の誕生日の前々日までに「初めて2級」「初めて1級」に該当すること。ただし、請求は65歳以降でもよい
「初めて2級」「初めて1級」の場合は、保険料の納付要件を満たせずに障害年金の請求を断念していた障害も、障害年金の受給に一定の役割を果たすことになります。障害年金の請求のために集めた資料は、その時は役に立たなくても念のために保存しておくようにしましょう。
執筆者:和田隆
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、特定社会保険労務士、社会福祉士