私は「おひとり様」ですが、老後の年金いくらもらえますか?
配信日: 2022.10.17
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
おひとり様と老齢年金の現状
「令和3年度厚生労働白書」によれば、50歳時点における未婚の割合は、2015年(平成27年)には男性23.4%、女性14.1%でしたが、2025年(令和7年)には男性27.1%、女性18.4%に上昇するものと推計されており、今後もおひとり様が増えることが見込まれています。
「令和3年簡易生命表」では、男性の平均寿命が81.47歳であるのに対して、女性は87.57歳と男性より6年以上長くなっています。また、「令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、以下のとおり、男性に比べて女性の老齢年金の平均受給額が少なくなっています。
男性:5万9040円
女性:5万4112円
男性:16万4742円
女性:10万3808円
さらに、国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料集(2022)」によると、2020年(令和2年)に50歳を迎えた女性のうち、未婚が17.81%、有配偶が70.07%、死別が1.49%、離別が10.64%となっており、おひとり様の割合は全体の約3割に及んでいます。
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老後に受給することができる年金
女性の場合は年金の受給額が少なく平均寿命が長いため、男性に比べてより厳しい老後を迎える可能性があると考えられますが、ここでは未婚、死別、離別のケースに分けて老後の年金について解説します。
1. 未婚のおひとり様のケース
未婚のおひとり様が老後に受給できる老齢年金は、自分自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金(会社員など厚生年金の被保険者期間がある場合)になります。
原則として65歳から受け取ることができる老齢基礎年金の額は、20歳から60歳までの40年間の国民年金保険料の納付月数などによって、下式のとおり年金額が計算されます。
77万7800円(令和4年度の満額)×保険料納付済月数(注1)÷480月
(注1):保険料の免除を受けた期間がある方は、免除された割合に応じて保険料納付済月数が調整されます。
また、同じく65歳から受け取れる老齢厚生年金(報酬比例部分)の額は、厚生年金の加入期間と報酬に応じて下式(注2)で算出された額となります。
平均標準報酬額×0.005481×加入期間(月数)
(注2):平成15年3月以前の加入期間については計算式が異なります。
なお、平均標準報酬額とは、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で割って得た額で、平均年収を12月で割った値に相当します。パート勤務や自営業者など、働き方によって厚生年金の被保険者期間がないおひとり様は老齢基礎年金のみとなりますので、老後の収入が極めて少なくなります。
2. 死別によるおひとり様のケース
夫と死別したおひとり様が老後に受け取れる老齢年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金に加え、夫の遺族厚生年金を受給している場合、自分自身の老齢厚生年金分が支給停止された遺族厚生年金となります。
図表1
日本年金機構 年金の併給または選択2つの年金を受け取れる方へより筆者作成
また、専業主婦や自営業者などで厚生年金の被保険者期間がないおひとり様の場合は、自分自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金になります。
3. 離別によるおひとり様のケース
夫と離別したおひとり様が老後に受給できる年金は、自分自身の老齢基礎年金と婚姻期間以外の老齢厚生年金、および離婚時の年金分割による老齢厚生年金になります。
離婚時の年金分割とは、離婚した夫婦の婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録について、当事者間で分割して年金額を算出する制度です。離婚時の年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
合意分割では、婚姻期間中の夫婦の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)の合計額を夫婦双方の合意、または当事者の一方の求めにより、裁判手続きで決定した按分割合に応じて当事者間で分割できます。
一方、3号分割は、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求により、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間の相手方の厚生年金記録について、2分の1ずつ当事者間で分割できる制度です。
図表2
婚姻期間中で夫婦がともに厚生年金に加入していた期間の年金は、合意分割の対象となり、夫婦の厚生年金記録の合計を按分割合に応じて分割します。従って、妻の方が夫より収入が高かった場合は、年金を分割すると老後に受給できる老齢厚生年金額が減ることがあります。
図表3
専業主婦であったため厚生年金の被保険者期間がないおひとり様の場合は、将来の年金は自分自身の老齢基礎年金と、婚姻期間中の夫の厚生年金記録を分割して算出される老齢厚生年金となります。なお、年金の分割請求の期限は、原則として離婚が成立した日の翌日から起算して2年以内となっています。
まとめ
おひとり様で50歳を迎える女性の方の割合は、2020年(令和2年)では女性全体の約3割に及び、そのうちの約6割を占める未婚のおひとり様が老後に受給できる年金は、自分自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金に限られます。従って、可能な限り長い期間、より高い報酬で厚生年金被保険者として勤め続けて老齢厚生年金額を増やすほか、できるだけ早めに老後資金の準備を進めておくことをお勧めします。
出典
厚生労働省 令和3年版厚生労働白書 50歳児の未婚割合の推移
厚生労働省 令和3年簡易生命表の概況
厚生労働省 令和2年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2022) 性別,50歳時の未婚割合,有配偶割合,死別割合および離別割合
日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
日本年金機構 老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額
日本年金機構 年金の併給または選択
日本年金機構 離婚時の年金分割
日本年金機構 離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)
日本年金機構 離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士