更新日: 2022.11.01 国民年金
自営業の夫が亡くなった。子のない妻である私が受けられる公的支援にはどんなものがある?
今回は、遺族基礎年金の対象とならない、子のない妻に対する国民年金独自の給付制度について解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
遺族基礎年金と国民年金独自の給付とは
1.遺族基礎年金とは
保険料納付要件などを満たす国民年金の被保険者である方や、国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方(日本国内に住所を有する場合に限る)が死亡したときに、受給要件を満たす遺族に遺族基礎年金が支給されます(※1)。
2.遺族基礎年金の受給対象者
遺族基礎年金の受給対象となる遺族は、死亡していた方に生計を維持されていた「子のある配偶者」と「子」に限られます。ここで言う「子」とは、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方になります(※1)。
なお、遺族厚生年金の場合、受給対象となる遺族は上記に加え、子のない妻、55歳以上の夫・父母・祖父母、一定の年齢以下の孫も含まれます(※1)。
3.国民年金の独自給付
国民年金には、一定の保険料納付済期間がある国民年金の第1号被保険者が死亡した場合、遺族基礎年金の受給対象にならない「子のない妻」などの遺族に年金を支給する「寡婦年金」と一時金を給付する「死亡一時金」という独自の制度があります(※1)。
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寡婦年金とは
寡婦年金制度は、死亡日の前日において、自営業などの国民年金第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)の保険料納付済期間と保険料免除期間が合わせて10年(注1)以上ある夫が死亡したときに、夫により生計を維持されていた妻(注2)が60歳から65歳になるまで年金を受け取ることができる制度です(※1、2)。
注1:平成29年8月1日より前に死亡した場合は、25年以上の期間が必要です。
注2:事実婚を含む婚姻関係が10年以上継続している妻が対象となります。
1.寡婦年金の年金額
夫の死亡日前日までの第1号被保険者期間に基づいて算出した老齢基礎年金額の3/4になります。
2.寡婦年金に関する注意点
(1)亡くなった夫が老齢基礎年金または障害基礎年金を受け取ったことがある場合は支給されません(注3)。
(2)妻が繰上げ受給の老齢基礎年金を受けているときは支給されません。
(3)妻が他の年金を受け取っている場合は、どちらかの選択になります。
(4)寡婦年金と死亡一時金の両方を受け取ることができる場合は、どちらか一方を選択して受け取ることになります。
注3:令和3年3月31日以前に死亡の場合、亡くなった夫が障害基礎年金の受給権者であったとき、または老齢基礎年金を受け取ったことがあるときは支給されません。
死亡一時金とは
死亡一時金制度は、死亡日の前日において、国民年金第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)の保険料を納めた月数(注4)が36月以上ある方が死亡したときに、一定の要件を満たす遺族が一時金を受け取ることができる制度です(※1、3)。
注4:4分の3納付月数は4分の3月、半額納付月数は2分の1月、4分の1納付月数は4分の1月として計算します。
1.死亡一時金の額
保険料納付月数に応じて表1の一時金が支給されます。
【表1】
保険料納付月数 | 一時金の額 |
---|---|
36月以上180月未満 | 12万円 |
180月以上240月未満 | 14万5000円 |
240月以上300月未満 | 17万円 |
300月以上360月未満 | 22万円 |
360月以上420月未満 | 27万円 |
420月以上 | 32万円 |
(※1を基に筆者作成)
付加保険料を納めた月数が36月以上ある場合は、上表の金額に8500円が加算されます。
2.受給対象の遺族
死亡した方の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順番で、死亡したときに生計を同じくしていた方が対象となります。
3.死亡一時金に関する注意点
(1)死亡した方が、老齢基礎年金または障害基礎年金を受け取ったことがある場合は支給されません。
(2)遺族が、遺族基礎年金の支給を受けられる場合は支給されません。
(3)寡婦年金を受けられる場合は、どちらか一方を選択します。
(4)死亡一時金は、死亡日の翌日から2年を経過すると時効となります。
どちらを選択すべきか
死亡した夫が寡婦年金と死亡一時金の支給要件を満たしており、婚姻期間が10年以上で死亡当時夫に生計を維持されていた妻は、寡婦年金と死亡一時金のいずれも受給することができます。この場合、どちらか一方を選ばなければなりません(※1、2、3)。
一般的に、寡婦年金の受取総額の方が死亡一時金より多くなりますが、以下のような特異なケースでは死亡一時金の方が多くなることがあります。
1.妻が老齢基礎年金を繰り上げ受給しているとき
妻が老齢基礎年金を繰り上げ受給している場合、寡婦年金は支給されませんが、死亡一時金は受け取ることができます。
2.妻の年齢が65歳に近い場合
寡婦年金は、妻が60歳から65歳になるまで支給されます。そのため、妻が65歳に近い場合は、死亡一時金の方が多くなることがあります。
例えば、夫の保険料納付済月数が420月で亡くなった場合、下式のとおり老齢基礎年金額(令和4年度額)は68万575円(※4)、寡婦年金の月額は4万2536円となります。
老齢基礎年金額=77万7800円×420月/480月=68万575円
寡婦年金月額=68万575円×3/4÷12月≒4万2536円
従って、妻が65歳になるまでの月数が8ヶ月未満の場合は、420月分の死亡一時金(32万円)の方が多くなります。
3.夫の納付済保険料が少ない場合
夫が納付した保険料が少ない場合、基礎となる老齢基礎年金の額が少なくなります。そのため、妻が65歳になるまでの月数によっては、死亡一時金の方が多くなります。
例えば、夫が半額免除された保険料を10年間(120月)納付していた場合、下式のとおり老齢基礎年金額(令和4年度額)は14万5838円(※4)、寡婦年金の月額は9115円となります。
老齢基礎年金額=77万7800円×(120月×6/8)/480月≒14万5838円
寡婦年金月額=14万5838円×3/4÷12月≒9115円
従って、妻が65歳になるまでの月数が14ヶ月未満の場合は、60月分の死亡一時金(12万円)の方が多くなります。
まとめ
自営業の夫が亡くなった場合、子のない妻には老齢基礎年金は支給されません。
しかしながら、国民年金独自の給付として、一定の要件を満たす妻には、60歳から65歳まで支給される寡婦年金と一時金として支払われる死亡一時金の制度があります。
寡婦年金と死亡一時金の支給要件を満たす妻は、いずれか一方を選択することになりますが、特別な場合を除いて、寡婦年金を選択する方が受給総額が多くなります。
出典
(※1)日本年金機構 遺族年金ガイド 令和4年度版
(※2)日本年金機構 寡婦年金
(※3)日本年金機構 死亡一時金
(※4)日本年金機構 老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士