更新日: 2022.10.27 厚生年金

遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」を分かりやすく解説

執筆者 : 茂野博起

遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」を分かりやすく解説
公的年金制度は時代背景に応じ、まるで継ぎはぎするかのように複雑化してきました。そしてその都度新たな年金用語が生まれ、理解することを求められてきた歴史があります。
 
公的年金の用語は似かよっていることも多く、解釈することも一筋縄ではいきません。遺族厚生年金の「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」もその一つといえるでしょう。
 
本記事では遺族厚生年金の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算をより分かりやすく解説します。
茂野博起

執筆者:茂野博起(しげの ひろき)

AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士

遺族厚生年金の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算

遺族厚生年金の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算にはどのような違いがあるのでしょうか。
 
図表1 子がいない場合の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算の受給イメージ

出典:日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)より筆者作成
 
図表2 子がいる場合の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算の受給イメージ

出典:日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)より筆者作成
 
遺族基礎年金は図表1のように子がいない場合は支給されません。また、図表2のように子がいる場合でも18歳の年度末日(3月31日)を迎えたときには支給されなくなります。その保障の穴埋めをする頼もしい存在が中高齢寡婦加算です。
 
また、65歳を迎えたことでそれまで支給されていた中高齢寡婦加算が支給されなくなり、支給停止に伴う年金受給額減額の軽減的役割を担うのが経過的寡婦加算です。
 

中高齢寡婦加算の受給要件

中高齢寡婦加算の受給要件を次のとおり簡潔にまとめてみました。
 
1. 厚生年金の被保険者の夫が亡くなったときに40歳から65歳で子がいない
なお、被保険者期間は20年以上必要です(ただし中高齢者の期間短縮の特例などによって20年未満の被保険者期間で共済組合等の加入期間を除いた老齢厚生年金の受給資格期間を満たした人はその期間)
 
2.遺族年金を受けていた妻が、子が18歳(障害等級1級、2級は20歳)到達年度の末日に達し遺族基礎年金が受給できなくなった
40歳に到達していたとしても、18歳の年度末日(3月31日)に満たない子がいる場合は支給されません。遺族基礎年金が支給されます。
 
つまり、中高齢寡婦加算の受給要件のポイントは、受給時の年齢と18歳の年度末日(3月31日)に達していない子がいるかいないかということです。
 
また「寡婦」とは、夫を亡くした妻のことです。厚生年金被保険者の妻が亡くなった場合、夫には支給されない点も注意が必要です。支給額は一律58万3400円(2022年度)です。
 

経過的寡婦加算とは

中高齢寡婦加算を受給する妻が65歳を迎えると中高齢寡婦加算の受給が終了します。それによる年金受給額低下の補充的役割を担うのが経過的寡婦加算です(図表1・図表2参照)。中高齢寡婦加算の受給者は65歳以降、経過的寡婦加算を受給することになります。
 
経過的寡婦加算の受給要件を次のとおり簡潔にまとめてみました。

1.65歳以上で老齢基礎年金の受給を開始したこと
2.中高齢寡婦加算を受け取っていた妻が65歳になったこと

なお1956年(昭和31年)4月2日以降生まれの妻には支給されません。
 
経過的寡婦加算の受給要件は中高齢寡婦加算と切っても切り離せません。また、経過的寡婦加算の支給額は、妻の生年月日により決定され毎年見直されることも覚えておきましょう。
 

中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算は遺族給付の補充的な役割を担う

公的年金には加入者の老後生活保障の役割以外に、障害保障や遺族補償の役割も兼ね備えています。特に厚生年金の中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算は、公的年金制度の遺族補償が薄くなる盲点にしっかりと対応した制度設計になっています。厚生年金保険料が高額であることもうなずけます。
 

中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算のまとめ


 
中高齢寡婦加算と経過的寡婦加算は非常に似た用語なので、理解を進める上で混乱しかねません。これらは遺族厚生年金の制度設計の一環であり、遺族給付の保障が薄くなる場面における補充的な給付であることを覚えておくといいでしょう。夫を亡くした妻にとって頼もしい給付になることは間違いありません。
 

出典

日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
日本年金機構 た行 中高齢寡婦加算
日本年金機構 か行 経過的寡婦加算
 
執筆者:茂野博起
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士

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