更新日: 2023.03.22 その他年金

年金を「繰下げ」しているうちに認知症になったら受給手続きはどうなるの? 子どもが代理で受け取れる?

年金を「繰下げ」しているうちに認知症になったら受給手続きはどうなるの? 子どもが代理で受け取れる?
年金の受け取りを先延ばしにすることで、受け取る年金額は増えます。これを「繰下げ」受給と言い、法律の改正により75歳まで受給開始を繰り下げることができるようになりました。65歳時に年金受給を開始する場合と比較すると、受給額は月あたり1.84倍にもなります。
 
とは言え、繰下げしているうちに認知症になってしまったら受給手続きはどうなるのでしょうか。子が代わりに受け取れるのでしょうか。
 
今回は認知症リスクもふまえた年金受給と、知っておきたい成年後見制度についてお伝えします。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

意思表示ができれば代理の手続きはできますが、代理の受け取りはできません

年金の受給権者(年金を受け取る権利のある人)本人が手続きのできない状態にあるときは、代筆・代理により手続きをすることが可能です。
 
ただし、本人の意思表示が前提であるため、認知症が疑われる場合には、裁判所で選任された法定代理人(成年後見人)が手続きをしなければなりません。また、公的年金は、親族であっても代理で受け取ることはできません。繰下げ受給や認知症リスクとともに、以下でくわしく見ていきましょう。
 

「繰下げ」受給で、年金額を増やすという選択肢

公的年金は、受給権者自身の生活を守るための保障です。一定の受給要件を満たしている場合、原則として、65歳になると公的年金を受給することができます。受給は生涯にわたって継続するため、長生きすればするほど受給額の総額は増えます。また、受給を先延ばしにすることで、月あたりの年金額をふやすことも可能です。
 
年金制度改正法により2022年(令和4年)4月から老齢年金の繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳へ引き上げられました。65歳時に受け取らず、75歳まで10年間(120月)繰り下げた場合には、受給額が月あたり0.7%増額され、65歳から受給した場合と比較すると月額で1.84倍(0.7%×12月×10年)にもなります。
 
なお、60歳以降前倒し(繰上げ)で受給する選択も可能です。繰上げ受給の場合は、月あたり0.4%減額されます。いずれも月単位での請求が可能です。
 

高まる認知症リスク

心身ともによい状態であれば何よりなのですが、加齢とともに記憶力や注意力の衰えは否めません。置き忘れやしまい忘れといった単なる「物忘れ」は誰でも起こりうることです。ただし、食事の記憶がない、行動の記憶がないといった状態、つまり「忘れたという認識がない状態」は認知症が心配されます。
 
「認知症」は、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態を言います。原因もさまざまで、症状にも個人差があるものの、高齢になるとアルツハイマー型認知症を発症する可能性が高くなると言われています。
 
認知症になると、お金の管理ができなくなり、犯罪やトラブルに巻き込まれる可能性も高まります。トラブルや家族の負担を軽減するためにも、対策として、家族での話し合いや書面での意思表示など具体的に検討しておくことをおすすめします。
 

受給開始にともなう手続き

受給権者からの請求に基づき、年金の支給が開始される手続きを「裁定」と言います。裁定の請求では、年金請求書に必要事項を記入し、本人確認書類、金融機関の通帳等(受取指定口座に関する情報)の必要書類とともに年金事務所(または街角の年金相談センター)に提出します。
 

「意思表示」ができるかどうか

高齢のため自分で請求書等の記入ができない場合には、代筆(摘要欄に代理の旨を記載)が認められます。また、本人が窓口に出向くことができない場合には、委任状を持参することで代理人による手続きが可能です。いずれにしても、受給権者の意思表示が前提となります。
 
本人の判断能力が十分でない常況である場合には、成年後見人を選任したうえで裁定請求をする必要があります。
 

年金受取口座は「本人名義」、ただし口座凍結リスクもあり

年金受取口座は、年金受給者の本人名義の口座を指定します。子の名義の口座への代理受給は認められていません。
 
銀行では、犯罪やトラブルから口座名義人の財産を守るため「預金口座を凍結する」ことがあります。口座凍結とは、お金の出し入れができない状態であり、つまり、年金を受け取ることも引き出すこともできません。
 
もし認知症が疑われる場合であっても、症状には個人差があり、一時的に記憶を欠くケースも多く見られます。そのため、体調のよいときに行った裁定請求が受け付けられる可能性も否定できません。そういった場合でも、取引のある銀行では「疑わしい」との判断から口座凍結にいたることもあり得ます。
 
この場合、口座凍結を解除するためには、成年後見人を選任したうえで、成年後見人による財産管理が必要となります。
 

成年後見制度の利用

成年後見制度は、判断能力が十分でない常況である場合に、本人に代わって、財産管理や契約等を行う制度です。成年後見人の選任にあたっては、家庭裁判所に対し、戸籍謄本や診断書など必要書類とともに後見開始の審判の申立てを行います。
 
裁判所で審理が行われ、審判によって成年後見人が選任されます。子や親族が成年後見人となる場合には、第三者専門家が監督人として選任されます。第三者の弁護士や社会福祉士などの専門家が成年後見人として選任されることもあります。申立てから審判まで2~3ヶ月程度かかります。
 

まとめ

繰下げ受給による年金額の増額は、より豊かに暮らすための手段である一方で、受け取り時期が先送りされることで介護や認知症リスクが高まることを考慮しておきたいものです。年金の裁定請求は、明確な意思表示ができれば、代筆や代理での手続きが可能です。
 
ただし、認知症が疑われる場合には、成年後見人による手続きおよび財産管理が必要となります。
 
成年後見制度についても、平均寿命の延びとともに、認知症リスクが他人ごとではない時代だからこそ、解決策のひとつとして知っておきたい制度です。
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士

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