更新日: 2023.04.17 その他年金
年金の「繰下げ受給」で受給額が「年200万円→368万円」に!? メリットや注意点を確認
本記事では、繰下げ制度の概要と変更点を再確認し、メリットや注意事項について解説します。繰下げ制度のメリットを享受するための準備として参考にしてみてください。
執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。
老齢年金の「繰下げ制度」とは
「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の受け取りを開始するタイミングは「65歳に達したとき」が原則です。一方で、本人が希望すれば、受け取り開始時期を「66歳以降」に遅らせて、受け取る年金の額を増やすことができます。これを「繰下げ受給」といいます。受け取り開始時期を1ヶ月遅らせるごとに、受け取る年金の額は0.7%増えます。
●例1:1年遅らせて66歳から受け取る場合、8.4%増額(0.7×12ヶ月)である。65歳から受け取る場合の老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計が年間200万円とすると、216万8000円になる。
●例2:5年遅らせて70歳から受け取る場合、42%増額(0.7×60ヶ月)である。例1と同じ年金額とすると、年間200万円が284万円になる。
繰り下げて受け取り開始した後、その増額率は本人が亡くなるまで適用されます。繰り下げる場合の受け取り開始時期は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の「両方同時」だけでなく、「片方だけ」でも「別々」でも指定可能です(老齢基礎年金、老齢厚生年金の一部を、割合指定や金額指定などで部分的に繰り下げることはできません)。
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2022年度からの変更点
2022年4月、老齢年金の受け取り開始時期の上限年齢(繰下げ可能な上限年齢)が70歳から75歳に引き上げられました。これにより、働き方や家計の事情に合わせた年金受け取りの時期と額の選択幅が広がったといえます。増額率(1ヶ月0.7%)は変わらないため、75歳まで繰り下げた場合は84%の増額です。
●例3:10年遅らせて75歳から受け取る場合、84%増額(0.7×120ヶ月)である。例1と同じ年金額とすると、年間200万円が368万円になる。
毎年、誕生日月に「ねんきん定期便」が届きますが、50歳以上の人には、65歳から受け取る場合の見込み額(年額、端数処理前の1円単位)に加え、70歳から受け取る場合と75歳から受け取る場合の見込み額も記載されるようになっています。
「繰下げ制度」のメリット
老齢年金の繰下げで得られるメリットは、年金受取額が増額されることで「想定以上の長寿による老後資金の枯渇を回避できること(少なくとも先のばしできること)」です。将来、利用するかもしれない介護施設の選択肢を増やせることも期待できます。
「繰下げ制度」に関する注意事項
老齢年金を繰り下げる際には、いくつかの注意事項があります。
そもそも、繰り下げようとして待機する65歳以降の数年間に、老齢年金なしで生活できる資産または収入があることが大前提です。多くの人の場合、何らかの準備が必要でしょう。
とはいえ、繰下げにより収入が増えることで、税・社会保険料・医療介護費(所得税・住民税、医療保険・介護保険の自己負担分や保険料)が増えたり、年金生活者支援給付金を受け取れない場合もあります。
他の年金との併給についても注意が必要です。老齢年金のほかに障害年金や遺族年金の受給権を取得した場合、それ以降は繰下げによる老齢年金の増額を受けられなくなります。また、日本年金機構、国家公務員共済組合などから複数の老齢厚生年金を受け取る場合、原則として全ての老齢厚生年金を同時に受け取り開始する必要があります。
繰り下げようとして待機している期間、加給年金(年間約40万円など)、振替加算(配偶者の生年月日により年間約1万5000円など)は受け取れません。繰り下げて受け取り開始しても、加給年金、振替加算の額は増額の対象になりません。
額が小さい振替加算はともかくとして、加給年金を受け取れそうな世帯は、繰り下げるほうがよいか、繰り下げないほうがよいかの検討が必要です。
まとめ
繰り下げて増えた年金の額によっては税・社会保険料などが増えるため、いわゆる手取り額の増額率は老齢年金の増額率と同じとは限りません。とはいえ、亡くなるまで健康でいられるかどうかにかかわらず「人生100年時代」です。繰下げ制度は、老後資金の枯渇を回避する(または先のばしする)ために選択できる手段として、最も安全で確実な手段の1つといえます。
繰り下げる場合の受け取り開始時期は、事前に決めて届け出る必要はありません。
まずは現役期のうちにNISAやiDeCoなどの非課税投資制度によって「資産形成」に取り組み、定年後は「退職金の取り崩し、企業年金の受け取り」、「NISAやiDeCoからの引き出し」、「就労延長(再雇用)または独立起業」などを組み合わせ、「老齢年金なしで生活できる間は、老齢年金の受け取り開始の手続きをしないでおこう」くらいの考え方でよいのではないでしょうか。
出典
日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 加給年金額と振替加算
執筆者:福嶋淳裕
CMA、CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー