更新日: 2023.04.25 その他年金

年金を繰り下げて「増額受給」! でも家族への「遺族年金」は増えないって本当?

年金を繰り下げて「増額受給」! でも家族への「遺族年金」は増えないって本当?
老齢厚生年金の受け取り開始は原則65歳ですが、受け取り開始時期を66歳以降に遅らせて年金の額を増やすことを「繰下げ受給」といいます(その逆に、65歳になる前に受け取りを開始して年金の額を減らすことを「繰上げ受給」という)。ここでひとつ疑問がわきます。
 
「繰下げ受給」を選択して年金を受け取っている人が亡くなったとき、遺族が受け取る遺族厚生年金に、生前の「繰下げ増額分」は反映されるのでしょうか。同様に、「繰上げ受給」を選択して年金を受け取っていた人が亡くなったとき、生前の「繰上げ減額分」は反映されるのでしょうか。
 
本記事では、老齢厚生年金を繰り下げた人(または繰り上げた人)が亡くなった場合の遺族厚生年金の計算の仕組みについて解説します。
福嶋淳裕

執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)

日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)

リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。

https://www.fp-fukushima.com/

遺族厚生年金とは

まず、「遺族厚生年金」とはどういうものかを確認しましょう。
 
遺族厚生年金は、遺族厚生年金の受給要件を満たしていた人が亡くなった場合に、亡くなった人によって生計を維持されていた「遺族」が受け取れる年金です。
 
遺族が複数いる場合は、「妻」「子」「夫」「父母」「孫」「祖父母」の順で最も優先順位の高い人が受け取れます。それぞれ受給できる期間が定められており、異なります。受け取れる年金額は原則、亡くなった人の「老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」です。
 

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老齢年金を繰り下げ(繰り上げ)た人が亡くなった場合の遺族年金の額は?

老齢年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば65歳で受け取らず、66歳以降75歳までの間に受給開始時期を遅らせることができます。これを「繰下げ受給」といいます。
 
繰り下げた期間の長さに応じて年金額が増額され(繰下げ1ヶ月ごとの増額率0.7%)、その増額率は一生変わりません。この逆が「繰上げ受給」であり、60歳以降65歳までの間に受給開始時期を早める代わりに、年金額は減額されます(繰上げ1ヶ月ごとの減額率0.4%)。
 
老齢年金を繰り下げた人(または繰り上げた人)が亡くなった場合の遺族厚生年金の額は、繰下げ増額(または繰上げ減額)前の本来の額(65歳から受け取っていた場合の額)を基に算出されます。つまり上記で確認した通り、原則、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額が基準とされます。
 
「繰下げ増額(または繰上げ減額)された老齢厚生年金の4分の3」ではありません。「自分は繰下げ増額されている。繰下げ増額された老齢厚生年金の4分の3を、自分の死後、配偶者は受け取れるだろう」は誤りですので、注意が必要です。
 

繰下げ受給額をシミュレーション

具体的な例で、シミュレーションしてみましょう。
Aさん(男性・78歳)は以下のように繰下げ受給をしていたと仮定します。
 

●50歳以降に届いたねんきん定期便によれば、老齢厚生年金を65歳から受け取る場合の見込み額は年間100万円だった。
 
●後期高齢期の収入を増やしたかったので、受け取り開始を10年遅らせ、75歳から受け取っている。
 
●繰下げ増額の結果、年金額は84%増え、184万円を受け取っている(繰下げ1ヶ月ごとの増額率0.7%×120ヶ月=84%)。

 

繰下げ受給をしていた人が亡くなった場合の遺族年金をシミュレーション

Aさんが78歳で亡くなったとします。遺族年金がどうなるか見ていきましょう。
 

●Aさんの「遺族」のうち、遺族年金受給の優先順位が最も高いのは妻。
 
●Aさんも、残された妻も遺族厚生年金の受給要件を満たしている。
 
●妻は遺族厚生年金として75万円を終身で受け取れることになった(遺族厚生年金のさまざまな調整要件や加算要件に該当せず、かつ亡くなった人の報酬比例部分が100万円だった場合の単純な例[報酬比例部分100万円×4分の3=遺族厚生年金75万円])。

 
Aさんの遺族年金は、増額後の年金184万円ではなく、100万円を基準に算出されることがポイントです。
 

「繰下げ待機中」の人が亡くなった場合の遺族年金の額は?

老齢厚生年金の受け取り開始をできるだけ遅らせて年金の額を増やそうと計画していた人が、繰り下げを待機しているうちに亡くなった場合はどうなるでしょうか。この場合も、遺族厚生年金の額は本来の額(65歳から受け取っていた場合の額)で計算した老齢厚生年金の額を基に算出されます。
 

まとめ

給与収入の増加(=厚生年金保険料の増加)を期待できなくなった定年前後の世代にとって、繰下げ受給は、老齢厚生年金の受取額を増やす有効な選択肢です。
 
一方で配偶者のいる人は、「繰下げ増額は遺族厚生年金に反映されない」、つまり「頑張って繰り下げても、自分の死後に配偶者が受け取る遺族厚生年金は増やせない」ことも知っておいた方がよいでしょう。そのうえで、自身の老後の資金計画を見通して、繰下げ受給あるいは繰上げ受給について、検討してみてください。
 

出典

日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)

日本年金機構 年金の繰下げ受給

日本年金機構 年金の繰上げ受給

 
執筆者:福嶋淳裕
CMA、CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー

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