「60代後半」で働く人の年金が早く増えるようになった?「在職定時改定」について解説
配信日: 2023.05.25
執筆者:福嶋淳裕(ふくしま あつひろ)
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
リタイアメントプランニング、老後資金形成を得意分野として活動中の独立系FPです。東証一部上場企業にて、企業年金基金、ライフプランセミナー、DC継続教育の実務経験もあります。
「在職老齢年金」とは
「老齢厚生年金を受け取っている」かつ「厚生年金保険の被保険者である」人は、老齢厚生年金の月額換算額(基本月額)と賞与込みの月収(総報酬月額相当額)の合計額に応じて、年金の一部または全部が支給停止となる場合があります。これを「在職老齢年金」制度といいます。
「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計額が「支給停止調整額」以下の月の場合は、年金の全額が支給されます。一方、基本月額と総報酬月額相当額の合計額が支給停止調整額を上回る月の場合、在職老齢年金制度によって年金の一部または全額が支給停止になります。
●基本月額:老齢厚生年金の報酬比例部分のその月の月額換算額
●総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)
●支給停止調整額:2022年度は47万円、2023年度は48万円
基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を上回る場合
基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を上回る場合には、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となります。どういうことなのか、実際の例で確認しましょう。
在職老齢年金制度による調整後の年金支給月額は、「基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2」です。
例えば「基本月額が10万円、総報酬月額相当額が40万円、合計50万円」の月の分の年金支給月額は、10万円-(10万円+40万円-48万円)÷2=9万円となり、本来の年金支給月額10万円から1万円調整されて9万円となります。
基本月額から「(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2」を引けなくなると、老齢厚生年金の報酬比例部分と加給年金額の全額が支給停止されるのです(経過的加算部分は全額が支給されます。実際の支給額は状況によって異なる場合があります)。
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2022年3月までの仕組み「退職改定」
2022年3月までは、65歳以降に老齢厚生年金の受給権をもちながら厚生年金保険の被保険者である場合、退職や70歳到達などにより厚生年金保険の保険者資格を喪失したときに、65歳以降の厚生年金被保険者期間が年金額にまとめて反映される仕組みでした。
これを「退職改定」といいます。長く働き続けることに対する見返り(年金額への反映)は、退職または70歳到達を待つ必要がありました。
2022年4月からの仕組み「在職定時改定」
2022年4月、「在職定時改定」が導入されました。在職定時改定とは、65歳以上70歳未満の人が、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金被保険者として就労している場合、毎年9月1日時点で、前年9月から当年8月までの厚生年金被保険者期間を基に加算して、当年10月分からの年金額を改定(増額)する制度です。概要は以下の通りです。
●はじめに、65歳到達月から当年(または翌年)8月までの厚生年金被保険者期間が当年(または翌年)10月分からの年金額に反映される(在職定時改定)
●その後は、前年9月から当年8月までの厚生年金被保険者期間が当年10月分からの年金額に反映される(在職定時改定)
●最後に、前年または当年の9月から退職または70歳到達までの厚生年金被保険者期間が年金額に反映される(退職改定)
在職定時改定の導入により、従来の退職改定に比べて長く働き続けるインセンティブを実感しやすくなったといえます。
まとめ
2022年4月の「在職定時改定」導入により、厚生年金保険に加入し、働きながら老齢厚生年金を受け取る場合の年金額は、在職老齢年金制度による調整を受けない範囲で毎年増額されることとなりました。65歳以降も働き続けることのメリットを、退職または70歳到達(退職改定)を待たず、早期に実感しやすくなったといえるでしょう。
出典
日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
日本年金機構 令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました
厚生労働省 年金制度の仕組みと考え方_第10_在職老齢年金・在職定時改定
執筆者:福嶋淳裕
日本証券アナリスト協会認定アナリスト CMA、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本商工会議所認定 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)