更新日: 2023.06.17 その他年金

父は過労死、母は車いすユーザー、弟はダウン症。令和のホームドラマ「かぞかぞ」の岸本家をもとに、母と子2人が受けられる制度を勝手に考察

父は過労死、母は車いすユーザー、弟はダウン症。令和のホームドラマ「かぞかぞ」の岸本家をもとに、母と子2人が受けられる制度を勝手に考察
作家の岸田奈美氏のエッセーが原作となるNHKドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(以下、かぞかぞ)を見ていると、心温まるホームドラマに涙する一方、ついつい家族の収入状況が気になってしまいます。
 
本記事では、ドラマや原作でもあまり触れられていない家族の経済状況について、登場人物ごとに考察します。
二角貴博

執筆者:二角貴博(ふたかど たかひろ)

2級ファイナンシャルプランナー

過労死の父

主人公の岸本七実さんの父、耕助さんは勤めていた会社を辞めてベンチャー企業を立ち上げました。ベンチャー企業は法人の形態と思われるので、社会保険が完備していたでしょう。家族は以下のように私的な生命保険のほか、厚生年金・労災保険からも給付を受けたはずです。

・生命保険(死亡保険金)
・厚生年金(遺族厚生年金・遺族基礎年金)
・労災保険(遺族補償給付)
・団体団信用生命保険(住宅ローン免除)

厚生年金に加入していた本人が亡くなった場合、生計を維持されていた配偶者のひとみさんに対して遺族厚生年金が支給されます。また、耕助さんが亡くなったときには中学生の娘・七実さんとダウン症の障害をもつ小学生の息子・草太さんがいたので、あわせて遺族基礎年金も受給できます(原則子どもが18歳になった年度末まで受給できますが、草太さんの障害等級が2級と仮定すると20歳になるまで受給可能となります)。
 
また、業務が原因の過労死だったので、労災保険から葬祭料と遺族補償給付が受けられます。遺族補償給付では、残された家族の数などを考慮した上で、遺族(補償)等年金や遺族特別支給金・遺族特別年金が支給されます。ただし、遺族(補償)等年金と前述した遺族年金は併給調整があるので、それぞれ満額受け取れない場合がある点に注意が必要です。
 
また、住んでいたマンションの住宅ローンが残っていても、団体信用生命保険に加入していれば、遺族による返済は免除されます。
 

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車いすユーザーの母

主人公の母である岸本ひとみさんは、耕助さんが亡くなったあと整体院で働いていましたが、大動脈解離を発症し、手術の後遺症で車いすユーザーになりました。職場で厚生年金に加入していたと仮定すると、障害厚生年金が受給できます(厚生年金に加入していなくても、障害基礎年金を受給できる可能性があります)。
 
ただし、障害年金と遺族年金は選択制なので、金額の大きいほうを受給することになります。遺族厚生年金の年金額が大きければ、遺族年金を受給していた可能性があります。
 

ダウン症で知的障害のある弟

岸本草太さんは、先天性のダウン症で知的障害も抱えているので、20歳からは障害基礎年金を受給できます。ただし、遺族基礎年金で加算されていた障害のある子どもの加算はなくなります。
 

大学生の主人公

このドラマの主人公である岸本七実さんは、福祉とビジネスを学ぶため大学に進学します。ドラマの中では、「遺族年金と学資保険・奨学金があったが大学の教科書代でトントン」とのせりふがあります。
 
学資保険は契約者が亡くなれば保険料の払い込みは免除され、大学入学時に受け取れるタイプであれば、大学の受験費用や初年度納付金にあてることが可能です。また、高校や大学の在学時に奨学金も受けていたのであれば、それぞれの学費にあてることもできます。
 

一家の大黒柱を失ったときの公保険制度は手厚いが

働き盛りの父を亡くした岸本家を支えたのは、生命保険の死亡給付金や遺族厚生年金を始めとする公的保険です。それでも、大病を患う母とダウン症の弟、認知症の祖母と一緒に暮らしていくにはお金がかかります。七実さんは家計を支えるため、大学在学中からベンチャー企業で働き、その後、作家として独立します。
 
ドラマや原作のエッセーでは家計のことはあまり触れられていません。母親であるひとみさんを心配させないために、あえて主人公である七実さんに言わずにいたのでしょう。ドラマの中で七実さんは、家族の死や障害・病気のどれか1つでもあれば、映画監督が世界中を泣かせてくれそうだと独白するシーンがあります。
 
困難の連続でも悲観的になりすぎず、明るく力強く過ごしていく岸本家のドラマがますます気になります。
 

出典

日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
厚生労働省 労働基準情報:労災補償
 
執筆者:二角貴博
2級ファイナンシャルプランナー

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