更新日: 2023.07.26 その他年金
仕事または通勤中に夫が亡くなった場合、どのような補償を受けられる?
本記事では、主に遺族(補償)年金について解説します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
遺族(補償)年金
労災保険では、業務中や通勤途上で労働者が負傷、疾病、障害、死亡に対し保険給付が行われます。遺族(補償)年金は、遺族への生活保障を目的として支給されます。
遺族(補償)年金を受け取れる遺族は、労働者の死亡当時その者の収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹となります。
「死亡した労働者の収入によって生計を維持していた」とは、被災労働者の収入によって生計を維持していた場合だけではなく、生計の一部を維持していた場合(共働き)も含みます。
ただし、妻以外の遺族は、生計維持要件のほかに、次のように年齢要件や障害要件が設けられていますので注意しましょう。
(1) 妻または60歳以上か一定障害の夫
(2) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にいるか一定障害の子
(3) 60歳以上か一定障害の父母
(4) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にいるか一定障害の孫
(5) 60歳以上か一定障害の祖父母
(6) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にいるか60歳以上または一定障害の兄弟姉妹
(7) 55歳以上60歳未満の夫
(8) 55歳以上60歳未満の父母
(9) 55歳以上60歳未満の祖父母
(10) 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
ちなみに、上記(1)~(10)の要件をクリアした遺族を「受給資格者」といい、受給資格者のなかで順位が第1位の遺族を「受給権者」といいます。
また、「一定の障害」というは、障害等級第5級以上の身体障害のことをいいます。(7)~(10)の55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹は、受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されます。これは「若年停止」といいます。
遺族(補償)年金は、受給資格者のなかで最先順位者に対して、「遺族の数」などに応じて支給されます。
例えば、遺族が1人の場合、給付基礎日額(原則、労働基準法の平均賃金に相当する額)の153日分です。ただし、その遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態のある妻の場合は175日分となります。遺族が2人の場合、給付基礎日額の201日分、遺族が3人の場合、給付基礎日額の223日分、遺族が4人以上の場合は245日分となっています(図表1)。
また、「遺族特別支給金(一時金・一律300万円)も加算され、賞与の支給があった場合には「遺族特別年金」も加算されます。
なお、遺族(補償)年金は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年間が過ぎてしまうと、時効により請求権が消滅しますのでご注意ください。
【図表1】
出典:厚生労働省「労災保険 遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続」
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遺族(補償)一時金
遺族(補償)一時金は、次のいずれかの場合に支給されます。
(1) 被災労働者の死亡の当時、遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合
(2) 遺族(補償)年金の受給権者が最後の順位者まで失権してしまったとき、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額および遺族(補償)年金前払一時金の額の合計額が、給付基礎日額の1000日分に満たない場合
遺族補償一時金の受給権者は、次の者のうち最先順位にあるものです。
1.配偶者
2.労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母(子・父母・孫・祖父母の順位)
3.その他の子・父母・孫・祖父母(子・父母・孫・祖父母の順位)
4.兄弟姉妹
上記(1)場合の支給額は、受給権者に、遺族(補償)一時金が給付基礎日額の1000日分、遺族特別支給金300万円、遺族特別一時金が算定基礎日額の1000日分となります。
上記(2)の場合の支給額は、遺族(補償)一時金について、給付基礎日額の1000日分より、すでに支給された遺族(補償)年金等の合計額を差し引いた金額となります。遺族特別一時金については、算定基礎日額の1000日分より、すでに支給された遺族特別年金の合計額を差し引いた金額です。
遺族(補償)年金前払一時金
遺族(補償)年金前払一時金は、遺族が当面の生活費や葬祭費用など、一時的にまとまったお金が必要なときに有益です。
遺族(補償)年金を受給することとなった遺族は、1回を限度として、年金を前払いで受給することができます。若年停止により年金の支給が停止されている場合でも、受給権者なら前払いを受けることができます。
前払一時金が支給されると遺族(補償)年金は、各月分(1年たってからの分は法定利率5%で割り引いた額)の合計額が、前払一時金の金額に到達するまで支給が停止となります。 前払一時金の金額については、給付基礎日額200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分のなかから、受給者が選択する額となります。
遺族年金との併給調整
同じ事由により、遺族年金と労災保険の遺族(補償)年金が両方支給されるときは、遺族年金は全額支給され、労災保険の遺族(補償)年金は所定の減額率により減額されるしくみになっています(図表2)。
【図表2】
出典:厚生労働省「厚生労働省 障害(補償)年金や遺族(補償)年金などの労災年金と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか。
以上のように、仕事中・通勤中に夫を亡くした場合には、遺族年金等を受給できます。ご自身のケースで受け取れるものがないか確認しましょう。
出典
厚生労働省 労災保険 遺族(補償)等給付 葬祭料等(葬祭給付)の請求手続
厚生労働省 障害(補償)年金や遺族(補償)年金などの労災年金と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか。
厚生労働省 労災補償・労働保険徴収関係
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。