更新日: 2023.08.04 その他年金

「85歳」まで生きるなら、年金の受け取りを遅らせるべき?「平均余命」から繰下げ受給の損得を解説

執筆者 : 西岡秀泰

「85歳」まで生きるなら、年金の受け取りを遅らせるべき?「平均余命」から繰下げ受給の損得を解説
老後の年金を増やすために、繰下げ受給を検討している人もいるでしょう。しかし、繰下げ受給を選択した場合、長生きをすれば得をする代わりに早死にした場合は損をすることもあります。
 
本記事では、繰下げ受給の損得を平均余命から解説します。年金の受け取り開始時期を検討するときにお役立てください。
西岡秀泰

執筆者:西岡秀泰(にしおか ひでやす)

社会保険労務士・FP2級

繰下げ受給と損益分岐点

原則65歳から受給する老齢年金の支給開始時期を遅らせることによって年金額を増やす方法を、繰下げ受給と言います。
 
しかし、年金受給時期を繰り下げた場合、余命によっては損をすることもあります。繰下げ受給をした場合の年金の総受取額が、65歳で受給を開始した場合を上回る年齢が「損益分岐点」となります。
 
繰り下げて70歳から受給開始した場合、損益分岐点はおよそ81歳です。81歳よりも前に死亡した場合は65歳から受給開始したほうが総受取額が多く、81歳よりも長生きした場合は70歳まで繰下げ受給をした方が多くなります。
 
なお、75歳まで繰り下げた場合の損益分岐点は86歳で、70歳から受給開始より損益分岐点も5年遅くなります。
 

85歳まで生きる場合の繰下げの損得

では、85歳まで生きると仮定して繰下げの損得を見ていきましょう。
 
65歳時点の年金額を180万円として、65歳で受給した場合と70歳または75歳まで繰り下げた場合の総受取額は、次のとおりです。なお、1ヶ月繰り下げると年金額は0.7%増額するので、70歳受給開始では年金額は42%、75歳受給開始では84%増額します。

・65歳受給開始:180万円×(85歳-65歳)=3600万円
・70歳受給開始:180万円×1.42×(85歳-70歳)=3834万円
・75歳受給開始:180万円×1.84×(85歳-75歳)=3312万円

繰下げ受給をして70歳から年金を受け取った場合、65歳での受給開始より総受取額が多くなり得をしたといえます。一方、75歳まで繰り下げた場合は、65歳で受給開始より総受取額が少なくなり損をしたことになります。
 
つまり、85歳まで生きると仮定した場合、何歳から受給開始するかによって繰下げの損得が決まるのです。
 

平均余命と繰下げの損得

85歳まで生きると仮定した繰下げ受給の損得について解説しましたが、実際には何歳まで生きられるかわからないため、判断に迷う人もいるでしょう。そこで役立つ判断材料の1つが「平均余命」です。
 
平均余命とは、「ある年齢の人が平均してあと何年生きるか」を表す数値です。厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、65歳時の平均余命は男性が19.44年、女性が24.30年です。
 
このデータに基づき、65歳時点で平均して男性が85歳、女性が90歳まで生きることを前提に、個々の事情(持病があり健康に自信がない、長生き家系である、など)を勘案して、繰下げ受給をするかどうかを判断するといいでしょう。
 
具体的には、次の通りです。

・男性の受給者が85歳まで生きると仮定して、75歳ではなく70歳受給開始を選択する
・夫婦の年金額が同額でどちらか一方を繰り下げる場合、妻が5年長生きすると仮定して妻のみ繰下げを選択する など

 

繰下げ受給を検討するときは平均余命も考慮しよう

老後対策として繰下げ受給によって年金額を増やすことは効果的ですが、65歳以降の収入など個人の状況に応じて繰り下げるかどうかを判断しましょう。
 
また、平均余命についても考慮が必要です。繰下げ受給の損益分岐点は受給を開始する年齢によって異なること、女性の方が平均余命は長く、一般的には女性の方が繰下げるメリットが大きいことなどを理解して、自身にあった受け取り方法を選択しましょう。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況
 
執筆者:西岡秀泰
社会保険労務士・FP2級

ライターさん募集