更新日: 2023.09.19 その他年金

年金の繰下げ受給で「損」をする可能性ってあるの?

執筆者 : 柘植輝

年金の繰下げ受給で「損」をする可能性ってあるの?
年金を繰下げ受給するか、それとも通常どおり65歳から受け取るかについては、メディアやSNSなどで度々悩みとして挙げられている部分でもあります。繰下げ受給をしない理由に「損をするから」というものがあります。
 
本当に繰下げ受給で損をする可能性があるのか、検証してみました。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

年金の繰下げ受給とは

年金の繰下げ受給とは、年金の受給開始時期を65歳より遅らせることで、その分将来増額された年金を受け取ることのできる制度です。繰下げは1月単位で75歳まで行うことができます。1月繰り下げるごとに将来受け取る年金は0.7%増額されます。つまり、最大75歳まで繰り下げると、84%増額された年金を受け取ることができるというわけです。
 

繰下げ受給で損をすることはあり得る

一見、繰下げ受給は受給できる年金が増額されることから、得をするように感じます。しかし、必ずしも得をするとは限りません。
 
仮に、65歳から1月当たり10万円年金を受け取れる方が75歳まで繰り下げたとしましょう。その場合、受け取れる年金額は1月当たり18万4000円となります。しかし、75歳から受け取りはじめ、76歳に亡くなってしまったらどうでしょうか。受け取れる総受給額は18万4000円×12ヶ月分で220万8000円です。
 
一方、通常どおり65歳から受け取りはじめて、同様に76歳で亡くなったとすると、1月当たり10万円の年金を11年間受け取ることができます。すると総受給額は1320万円となります。このように、繰下げ受給をして月当たりの受給額が増えても、受取期間が短くなることで総受給額は少なくなる可能性があります。
 

繰下げ受給をするなら何歳まで繰り下げるのがよいのか

いつまで繰上げ受給をすると総受給額が多くなり、得をできるのかは、何歳まで生きるかによって異なります。
 
受け取り開始時期と生きる年齢による年金の総受給額について、「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平均的な厚生年金の受給月額は(14万5665円)となるようです。これを基に5歳刻みで試算してみます。すると、データは下記のようになります。
 
図表


 
※筆者作成
 
上記表の内、黄色の部分が、一番受給額が多くなるタイミングとなっています。90歳とかなり長生きする場合であっても繰下げは72歳までとした方が、総受給額は多くなります。逆に75歳まで生きるのであれば、繰下げをせずに受け取った方が総受給額は多くなりそうです。
 

繰下げをするかしないか決める基準は?

繰下げをするかしないか、何歳まで繰り下げるべきかを考える基準のひとつに、平均寿命があります。これまでの試算を見る限り、年金をより多く受け取ろうと思ったら、増加額以上に受給年数が重要になります。
 
その点、平均寿命はひとつの指標になり得ます。多くの方が平均寿命近くまで生きると想定できるからです。
 
参考までに、厚生労働省の「令和4簡易生命表の概況」によれば、平均寿命について、男性は81.05年、女性は87.09年となっています。平均寿命を踏まえると、持病があるなど平均寿命を迎える前に亡くなることが想定されることを除き、男女ともに67歳頃まで繰り下げる方がよさそうです。
 

年金の繰下げ受給は受け取れる年数を基準に決めるとよい

年金の繰下げ受給によって損をするかどうかは、年金を受給できる期間が長いか短いかが重要になります。そのため、ひと月当たりの受給額が増えても、結局受け取る年数が短ければ繰り下げない方がよい場合もあります。とはいえ、具体的にどうするべきかは、個別の事情によって異なります。
 
年金の繰下げ受給について悩んだときは今回の試算を参考にしつつ、何歳まで生きればより多く年金を受け取れるか考えてみてください。その上で、何歳までなら繰り下げても無理なく生活できるかを考えて、完璧を目指さず、多少妥協し、ある程度損得の金額が変わっても割り切れるタイミングで決定するとよいでしょう。
 

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
厚生労働省 令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況
厚生労働省 令和4年簡易生命表の概況
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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