更新日: 2023.09.28 その他年金
2004年の年金制度改革から「100年安心」の年金制度という言葉の意味を改めて考えよう
かつて年金制度は「100年安心」といわれていましたが、現在、国が行おうとしている年金に影響を及ぼすさまざまな政策の起点となっているのは、2004年(平成16年)に実施された年金制度改革かもしれません。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
2004年の年金制度改革で何があったのか
年金制度改正の歴史を知るうえで、2004年(平成16年)は非常に重要な年といえます。
この年に行われた年金制度改革の内容は、「上限を固定したうえでの保険料率の段階的引き上げ」と「基礎年金の国庫負担割合の引き上げ」、そして「マクロ経済スライドの導入」などです。端的にいうと、「給付と負担を均衡させる仕組みを“制度上”で整えた」ことが改正の大きな特徴となっています。
日本の年金制度は「社会保険方式」と「税方式」の2本立てで成り立っています。社会保険方式とは、加入者が納めた保険料に応じて給付が賄われる仕組みのことで、これに対して税方式とは、公費(国や地方自治体に納めた税金)を財源に給付が賄われる仕組みです。つまり、年金制度は私たち加入者が支払う保険料と納めた税金によって成り立っています。
今でも続く一連の年金制度改税は、少子高齢化という社会的背景の下、どのように年金制度を維持すべきかが議論の焦点となっています。
高齢化社会は、一般的に65歳以上の人口の割合(高齢化率)が総人口の7%を超えた社会のことをいいます。内閣府の令和5年版高齢社会白書によると、日本の高齢化率は2022年(令和4年)では29%となっています。
年金制度において高齢化率の上昇は、年金給付(年金の支給に伴う国の支出)が増えることを意味しますが、日本では少子化も進んできました。
2004年の合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当)は、戦後初めて1.3を下回った2003年と同水準である1.29となりました。
少子化の進展は、年金制度の担い手となる現役世代の減少により、制度を維持するために必要な財源(保険料や税金)が減るという負の影響をもたらします。
前述した2004年の年金制度改革の特徴である、「給付と負担を均衡させる仕組みを“制度上”で整えた」とは、年金制度を将来にわたって維持するために、給付を抑制し、保険料を引き上げる仕組みを制度として整えたということです。
具体的には、年金保険料率の段階的な引き上げと同時に、基礎年金(国民年金)について国が負担する割合を2分の1に引き上げることを法律上で定めました。
また、給付面では「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金の給付水準を調整する仕組みを導入し、賃金や物価の改定率に対して一定の調整を行うようにしました。
例えば、賃金や物価がある程度上昇した場合、その改定率から現役の被保険者の減少率と平均余命の伸びに応じて算出した調整率(スライド調整率)を差し引く形で給付水準が調整され、このケースでは年金額は増えることになります。
賃金や物価の伸びが小さいときにマクロ経済スライドを適用してしまうと年金額が減ってしまうため、そのような場合は年金額の伸びがゼロになる範囲内での調整となり、年金額の改定は行われません。
また、賃金や物価の伸びがマイナスとなった場合はマクロ経済スライドによる調整は行われず、賃金や物価の下落分のみ年金額が引き下げられます。
このように2004年の年金制度改革で、年金に係る給付と負担は“制度上”で均衡することが国民に示されました。
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年金制度改革が伝えるメッセージ
2004年の年金制度改革で実施された「基礎年金の国庫負担割合の引き上げ」では、年金制度について国がより多くの負担を請け負うことになりました。
また、「上限を固定したうえでの保険料率の段階的引き上げ」はすでに終了し、現在では一定の水準で止まっています。これらは国が年金制度を維持するうえで、将来の現役世代の負担を増やさないというメッセージを送っていることを意味します。
一方、「マクロ経済スライドの導入」は年金の給付額を社会情勢の変化に合わせて、いわば自動的に調整する仕組みです。5年に一度実施される財政検証の際には、おおむね100年後に年金給付費の1年分の積立金を残せるように年金額の伸びを調整する期間を見通しながら、年金財政が維持できるかどうかを計っていきます。
この点からマクロ経済スライドの導入は、長期的に見れば大きくブレることなく安定的に年金を給付できるというメッセージを伝えており、「100年安心」の年金制度とうたわれた根拠はここにあります。
しかし、マクロ経済スライドによる調整は前述したとおり、賃金や物価の改定率から現役の被保険者の減少と平均余命の伸びなどに応じて算出されるスライド調整率を差し引くことで行われるようになっています。つまり、少子高齢化がさらに進んだ場合、マクロ経済スライドによる調整が大きくなるため、たとえ賃金や物価が上昇したとしても年金の改定額は低く抑えられます。
このような仕組みを知ると、年金制度は維持できるものの、長期的には給付額を減らしながら制度が保たれていく可能性も高いと見ることができるでしょう。
まとめ
2004年の年金制度改革は、2008年に起きたリーマンショックより前に実施されたものです。マクロ経済スライドが導入されている現行の年金制度を軸にライフプランを立てる場合、私たちが将来受け取れる年金は日本が少子高齢化を食い止め、経済成長を遂げないかぎり、期待するほど増えることはないと考えておいた方がいいかもしれません。
出典
厚生労働省 厚生年金、国民年金の財政 厚生年金・国民年金 平成16年財政再計算結果(報告書)
日本年金機構 マクロ経済スライド
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)