更新日: 2023.09.28 その他年金

将来もらえる年金を増やしたいから、サラリーマン増税の前に経済成長が必要と考えるのは現金なことでしょうか?

執筆者 : 重定賢治

将来もらえる年金を増やしたいから、サラリーマン増税の前に経済成長が必要と考えるのは現金なことでしょうか?
先ごろ、「サラリーマン増税」という言葉がメディアをにぎわしましたが、サラリーマン増税は世論などの反応を探るための観測気球に過ぎず、本当の目的は消費税の増税ではないかと筆者は見ています。
 
2024年(令和6年)は5年に一度行われる年金の財政検証の年ですが、ちょうど20年前の2004年(平成16年)、現在の年金制度の要ともいえるマクロ経済スライドが導入されました。以降も年金制度は見直しや改正が行われ、それに歩調を合わせるようにさまざまな制度が変更されてきました。
 
特に大きな変更となったのは、2014年(平成26年)4月と2019年(令和元年)10月に実施された消費税の増税です。マクロ経済スライドが導入された10年後、消費税率は5.0%から8.0%に引き上げられ、その5年後、さらに10.0%にまで引き上げられました。2004年を起点に数えると、要した期間は15年です。
 
2024年は、マクロ経済スライドが導入されてから20年目に当たります。国は「消費税率について10年程度は上げることは考えない」と言っていますが、年金の財政検証に基づき、どのような方向性が打ち出されるのかは気になるところです。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

現行の年金制度では将来もらえる年金は増えにくく、減りやすい

本来、増税の前に必要なのは経済成長です。岸田首相は内閣発足時に「分配から成長へ」というスローガンを掲げていましたが、これがいつの間にか「成長から分配へ」と変わったことは記憶に新しいでしょう。
 
税金は分配の原資です。経済成長がなければ税収も増えず、ましてや分配もできないわけですから、「成長から分配へ」という考え方は当たり前のことといえます。
 
年金制度には所得の再分配政策としての機能があるため、私たちが納める保険料と税金によって財源を確保できなければ制度自体が成り立ちません。仮に経済成長よりも先に分配を優先した場合、年金財政は枯渇していきます。
 
こうした点を踏まえると、年金制度を維持するには大まかに分けて2つの視点で考えていく必要があることが分かります。それは、「給付を抑えること」と、「負担を増やすこと」です。
 
2004年の年金制度改正で国がマクロ経済スライドを導入した目的は、年金制度を維持するために給付と負担のバランスを調整することにあります。今後も少子高齢化が進むと仮定した場合、年金給付が増える可能性が高まることから、財源となる保険料や公費(税金)の負担を引き上げていく必要が出てきます。
 
しかし、保険料や税金をより多く徴収することで経済成長が鈍化し、国民の生活は苦しくなります。
 
年金の給付と負担の均衡をできるだけ保つために、マクロ経済スライドという調整率を設けて年金制度を維持することにしましたが、これは極端な給付の増加と負担の上昇を抑制するための経過的な措置といえます。
 
裏を返すと受け取れる年金が増えにくい仕組みといえ、将来的に年金を増やしていくには国が経済成長を遂げる必要があります。
 
現行の年金制度では毎年、支給される年金額が再計算される仕組みになっています。制度上、年金額が改定される年もあれば、改定されない年もありますが、賃金や物価の上昇率に対し、マクロ経済スライドの調整率(スライド調整率)が勘案されたうえで年金額が決まります。
 
つまり、賃金や物価がある程度は上がらなければ、年金は増えにくくなるか、減りやすくなるというわけです。
 

増税によって将来の年金は減りやすくなる

年金を増やすには物価とともに賃金が上がるような経済成長を実現する必要があり、現在のようなまだ景気が完全に回復していない状況で増税を行えば景気は悪くなります。以下で、国内総生産(GDP)の計算式に基づき、増税した場合の影響について見ていきましょう。
 
Y=C+I+G+(X-M)
 
YがGDP、Cは消費、Iは投資(設備投資、住宅投資など)、Gが政府支出で、XとMはそれぞれ輸出と輸入を表しています。消費が活発で投資意欲も高く、国が財政支出を行い、純輸出(輸出-輸入)が多いほうがGDPは増えやすいことが分かります。
 
一方、政府支出を抑えた状態で増税するとなると、必然的にGDPは減りやすくなります。増税により国民の負担が増えることで結果的に消費が振るわず、投資意欲も減退してGDPは落ち込みます。
 
2014年と2019年に実施された消費税の増税は、GDPを落ち込ませましたといわれています。GDPの落ち込みは、経済成長率(GDP成長率)を低下させます。経済成長率が低下している経済環境というのは、賃金と物価の水準が落ち込んでいる状況です。
 
つまり、増税をすると賃金と物価の水準が低下し、将来もらえる年金が増えにくい、もしくは、減りやすくなることを意味します。
 

まとめ

日本では社会保障制度を維持するために、経済成長よりも増税が必要だという議論が先に立ちやすい印象を受けます。
 
本来であれば、経済成長を遂げ国民の生活が豊かになる過程で、少しずつ年金財政を改善させればいい話ですが、おそらく財源についての議論のほうが年金制度に関する議論よりも聞いている側としては分かりやすいからでしょう。
 
経済成長が低い状況で増税をするのは、いつか来た道をまたたどることにつながります。サラリーマン増税や消費税増税の前に、将来もらえる年金を増やすための共通認識として、経済成長について国民レベルで意識する必要があるのではないでしょうか。
 

出典

日本年金機構 マクロ経済スライド
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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