更新日: 2023.10.25 その他年金

「年金がもらえない?」卒婚した妻は夫の年金を分割できないって本当?

「年金がもらえない?」卒婚した妻は夫の年金を分割できないって本当?
新しい夫婦関係の形として注目される「卒婚」。煩わしい手続きの必要な離婚と異なり、法的な婚姻関係を継続しつつ、それぞれが別々の人生を歩むための選択肢となります。「離婚」「別居」にはネガティブな印象ある一方で、「卒婚」は自由で前向きなイメージであることも注目される理由かもしれません。
 
とは言え、経済的な面、とくに老後の年金について心配する声が多いのが現状です。離婚した場合には「年金分割」という制度がありますが、卒婚の場合はどうなるのでしょうか。「卒婚」という選択肢とともに、注意すべき点についても考えてみます。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

「卒婚」とは? 「離婚」との違い

「卒婚」は離婚と異なり、法律上の婚姻関係は継続します。つまり、戸籍上は夫と妻であることに変わりはありません。
 
1つ屋根の下で別々に生活する「同居卒婚」であれば、住む場所を失うことなく生活することができますし、ご近所に知られることもありません。一方、「別居卒婚」であれば、それぞれが新しい生活スタイルを確立することで、お互いに干渉することなく自由に生活できるなど、さまざまな形があります。
 
長年の夫婦関係においては、ちょっとした価値観の違いが徐々に膨れ上がることも、我慢の限界を感じることもあるでしょう。誤解や思い込みから離婚を考えることもあるかもしれません。とは言え、離婚は、手続きや精神面でのハードルが高く、一度他人となってしまうと復縁の可能性は低いです。
 
距離を置くことで冷静にそれぞれの今後を考える「離婚のための」もしくは「復縁のための」ステップとして、まずは「卒婚」という選択肢も有効となります。
 

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「卒婚」のメリット・デメリット

「結婚(婚姻)により夫婦となるよりも、離婚により他人になる方が大変」という話はよく耳にします。離婚が話し合い(協議)のみで合意に至らない場合には、調停といった家庭裁判所での第三者立ち会いへ発展することも想定されます。離婚が決まると、原則として自宅や金融資産など財産分与を行うほか、さまざまな手続きをする必要があります。
 
こういった流れのなかで、時間的・精神的に疲弊するケースも多く見られます。時間的・精神的ダメージを乗り越えてでも、婚姻関係を解消し「他人」となることで、人生をリセットしたいという方であれば、離婚が適切かもしれません。
 
一方で、卒婚であれば、煩わしい手続きを経ずに新しい生活を始めることができるという点でメリットと言えます。ただし、「他人」にならない卒婚では、お互いの扶養義務は継続します。日常生活だけでなく、病気や介護状態になった場合の扶養義務は消滅しません。
 
なお、卒婚した場合でも、配偶者という法定相続関係は変わらないため、相続人として財産を相続することができ、遺族年金も受給可能です。
 

離婚した場合の「年金分割」という制度

「年金分割」とは、婚姻中に配偶者が支払った厚生年金保険料の納付記録を分割することにより、もう一方の配偶者の年金受給額が増える制度のことです。
 
例えば、会社員として厚生年金に加入する夫と専業主婦である妻が離婚した場合、老齢年金は、厚生年金が上乗せされる夫に対して、国民年金のみに加入し家庭を支えてきた妻の年金受給額は相当に少なくなってしまいます。
 
公的年金制度は、扶養の意味も含まれる加給年金などのように、夫婦2人で老後の生活を支え合うことを前提とした部分もあります。夫婦として生活を続ける限り問題は生じません。
 
しかし、離婚した場合には、家事労働によって家庭を支えてきた妻にとって、年金受給額に大きな差が付くのは不公平です。そのため、夫の厚生年金部分を分割することで、離婚後の生活が困窮しないよう不公平を是正することを目的とした制度です。
 
年金分割には、双方の合意により分割する「合意分割」と、専業主婦(主夫)であった方からの請求により分割する「3号分割」がありますが、いずれも「離婚」をした場合に請求できる制度です。つまり、法律上婚姻関係が継続する「卒婚」は対象となりません。
 

生活を支え合う法的義務

婚姻に関する法律(民法)では、「夫婦はお互いに協力し扶助しなければならない」と規定されています。法律上の婚姻関係が続いている以上は、お互いに扶養の義務を負います。収入に差があるケースでは、それぞれが納得する年金収入の受け取り方、生活費などの支出分担を話し合いによって決める必要があります。
 
注目される「卒婚」は、夫婦の新しい生活スタイルとして選択肢となりますが、法律上において「他人」となることはできず、曖昧な関係性とも言えます。夫婦だからこその扶養義務や相続発生時の優位性などについて、法律上の規定をメリットと捉えるのか、デメリットと捉えるのかは表裏一体です。
 

まとめ

「卒婚」は有効な手段である一方で、同居か別居か、生活費を誰がどう負担するのか、病気や介護になったとき、年金の受け取り方、相続が発生した場合などについて、きちんと話し合っておくことが大切です。
 
とくに専業主婦であった妻の場合、自由を手に入れたものの、生活に困窮するようでは意味がありません。「卒婚」では年金分割制度を利用できないことをふまえると、事前に戦略的に公平な生活費支援について検討する必要がありそうです。
 
後悔やトラブルを回避するためにも、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP(R)認定者・相続診断士

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