更新日: 2023.12.13 その他年金
持病のため、60歳からは年金を「繰上げ受給」しながらバイト暮らしを考えています。周囲に反対されているのですが、繰上げ受給はそんなに「損」でしょうか?
執筆者:橋本典子(はしもと のりこ)
特定社会保険労務士・FP1級技能士
繰上げ制度と年金額
「繰上げ受給」とは老齢年金の受給開始年齢を早める制度です。まずは制度の概要をみていきましょう。
繰上げは60歳から可能
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として65歳から支給が始まります。しかし65歳の到達を待たず、前倒しで老齢年金を受給できる「繰上げ制度」があります。この繰上げ制度を使うと、60歳から老齢年金の受給を始めることが可能です。
また「61歳6ヶ月から」や「64歳2ヶ月から」など、65歳になるまでの希望する月からの受給もできます。なお繰上げ請求をするときは、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り上げなければなりません。そして繰り上げた年金は請求日の翌月分から受給できます。
繰り上げた場合の年金額
繰上げ受給をすると、繰上げの月数に応じて年金が減額されます。減額率は次のとおりです。
減額率(最大24%)=0.4%※×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
※1962年4月1日以前生まれの人は0.5%(減額率は最大30%)
60歳で繰上げ請求をした場合「60歳0ヶ月から65歳に達する月の前月まで」の月数は60ヶ月です。この場合0.4%×60ヶ月=24%となり、本来の年金額の24%が減額されることになります。なお付加年金を納めていた人は、付加年金も同じ率で減額されます。
繰上げ受給で注意すること
繰上げ受給は、1度請求すると取り消すことはできません。また国民年金の任意加入や保険料の追納ができなくなり、その他にも次のような注意点があります。
●繰上げ請求後に障害状態に該当しても、障害基礎年金は受給できない
●遺族厚生年金の受給権があっても、65歳まではどちらか一方しか受給できない
●加給年金は繰上げできず65歳から受給開始
など
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繰上げ受給は損?
前述のとおり、繰上げ受給をすると繰り上げた月数に応じて年金が減額されるため、損だといわれることが少なくありません。しかし年金の受給総額だけで損得を考えてよいのでしょうか。
受給額だけで考えると
老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額が15万円の人を例にとって見てみましょう。60歳0ヶ月で繰上げ受給をすると24%が減額されるので、受給額は11万4000円です。そしてこの年金額を生涯受給することになります。
受給額が減額される一方、今回の場合は5年間前倒しで年金が受給できるため、受給開始後しばらくは、繰上げ受給した方が受給総額は高くなります。しかし、いずれは65歳から受給した方が受給総額は多くなります。この逆転が起きるのは、60歳から受給した場合、おおむね80歳を超えたあたりとなります。
高齢期の状況は人それぞれ
老齢年金の原則的な受給開始年齢は65歳ですが「繰上げ」や「繰下げ」の制度を設けることで、年金受給開始年齢を60歳から75歳まで幅を持たせています。それは、高齢期の状況は人によって異なるからです。
例として、本記事のタイトルの「持病がある人」のケースで考えてみましょう。60歳で退職や年金の繰上げ受給をせず、65歳まで厚生年金に加入して働き続ければ、年金額は増加します。しかし無理をしたために持病が悪化し、途中でリタイアするリスクが高まるかもしれません。
一方、年金を繰り上げて無理のない範囲でアルバイトをするなど負担の少ない働き方をした場合、65歳以降も仕事を継続して収入を得られる可能性もあるでしょう。
このように、高齢期の健康状態や資産状況には個人差があるため、一概に「繰上げ受給が損」とはいえないのです。
まとめ
老齢年金の繰上げ受給制度を利用するかどうかは本人の自由です。大切なのは年金額だけに捕らわれず、自分の資産状況や健康状態、ライフスタイルなどを総合的に考えることではないでしょうか。
出典
日本年金機構 年金の繰上げ受給
厚生労働省 [年金制度の仕組みと考え方] 第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給
執筆者:橋本典子
特定社会保険労務士・FP1級技能士