更新日: 2023.12.18 その他年金

60歳からパートを始めて70歳で「繰下げ受給」するのは、賢い定年後の生き方ですか?

執筆者 : 柘植輝

60歳からパートを始めて70歳で「繰下げ受給」するのは、賢い定年後の生き方ですか?
60歳で定年を迎えた後も、何らかの形で働きつづけることは今や珍しいことではないでしょう。加えて「繰下げ受給」によって年金を増やせることも知られ始めており、これらを組み合わせて定年後はより豊かに過ごそうと考える方も出てきているようです。
 
そこで「60歳からパートを始めて、70歳まで年金の受給時期を繰り下げる」という年金の受け取り方について考えてみます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

60歳からパートを始めるのはあり?

60歳からパートを始めることは、老後の生活を考えるにあたって、有効だと考えられます。
 
定年が70歳まで延長されている会社も存在している一方、再雇用や定年延長後の条件によっては、退職を選択する方も珍しくはありません。
 
そうした場合、問題となるのが当面の生活費です。年金は、一般的に、65歳から受給できるものです。60歳まで受給時期を前倒しすると、年金は24%減額されてしまいます(年金の繰上げ受給:1月当たり0.4%減額される。※昭和37年4月2日以降生まれの方の場合)。仮に年金額が月換算10万円であれば、繰上げ受給後は月換算7万6000円にまで下がることになります。
 
そのため、繰上げ受給をしない場合、60歳で定年退職をしても5年分の生活費が必要になります。それを賄うのが就労です。パートであっても自身に見合った働き方をすることで、60歳で定年退職しても、年金受給ができるまでの5年間の生活費を賄うことも可能です。仮に全額ではなくとも、一部を賄うことで、老後に備えて貯めてきた資産を長持ちさせることができます。
 

70歳まで繰下げ受給するのはあり?

年金は最大で75歳まで繰り下げることが可能です。繰下げ受給をすることで、1月当たり0.7%年金が増額されます。仮に年金が月換算で10万円の方が、70歳まで年金を繰り下げると、受け取る年金額は14万2000円になります。
 
ただし、繰下げ受給には注意点が1つあります。それは、もらえる年金額が増額する反面、受け取る期間が短くなるということです。
 
例えば、月々10万円の年金を受け取れる方が、80歳まで生きる場合で考えてみましょう。70歳まで繰り下げをすると、月々の年金を14万2000円受け取っても、生涯で受け取れる額は1704万円です。
 
一方で、60歳から70歳までの間で受給した場合に、最も多く受け取れるのは62歳の場合です。その場合、生涯で1848万9600円を受け取ることができます。
 
そのため、繰下げ受給をするのであれば、長生きすることを前提に考える必要があります。仮に70歳まで繰下げ受給をし、かつ、最も多く年金を受け取ろうと思ったら、少なくとも86歳までは生きる必要があります。
 

パートをしつつ繰下げ受給をする方法は、賢い方法なのか

では「定年後はパートで働きつつ、年金受給を70歳まで繰り下げる」という方法は、賢い選択といえるのでしょうか。
 
この方法は「リスクを抑える」という点から考えると、実に理にかなった方法だといえます。繰下げ受給は、長生きすることを前提にすればより多く年金額を受け取れるため、老後の生活費に困らずに済みます。要は、長生きによるリスクを低減できるわけです。
 
また、60歳から年金を受け取る70歳までパートで働くと、年金を受給する前の期間も生活費を得られ、老後資金を極力消費することなく、年金の受給まで生活をつなぐことができます。
 
それらを考えると「60歳からパートを始めて、年金の受給は70歳まで繰り下げる」という選択は、将来を長い目で考えたときに、バランスの良い、賢い選択といえます。しかし、年金の繰り下げによって「86歳よりも前に亡くなってしまった場合に、受け取れる年金額が少なくなる」というリスクが生じることも、許容しなければなりません。
 

まとめ

60歳からパートを始め、年金を70歳まで繰り下げる方法は、老後に長生きすることを考えると賢い選択です。しかし、想定外に長生きできなかった場合、もらえる年金の総額は小さくなる可能性もあります。
 
もし、パートと繰下げ受給によって老後の生活を安定させようと考えるのであれば、自分が何歳まで生きる予定か見込みを立て、何歳まで繰り下げをするか、あるいは繰り上げをした方がいいのか、十分に試算した上で決定することをおすすめします。
 

出典

日本年金機構
 年金の繰上げ受給

 年金の繰下げ受給
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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