更新日: 2023.12.27 その他年金

離婚時の年金分割は、おいしい話か? 専業主婦が離婚したら夫の年金からどのくらいもらえる?

執筆者 : 水上克朗

離婚時の年金分割は、おいしい話か? 専業主婦が離婚したら夫の年金からどのくらいもらえる?
熟年離婚が増えています。厚生労働省「人口動態統計月報年計」(2022年)によると、離婚総数に占める同居期間20年以上の人の離婚割合は1985年時点で約12.3%でしたが、2022年時点の割合は、約21.8%に増加しています。
 
離婚するときには、夫婦の資産を分配する財産分与を行います。厚生年金も財産分与の対象となり、夫婦で分け合うことができます。これを「年金分割」といいます。どのくらいもらえる、または渡す必要があるのでしょうか。本記事で見ていきましょう。
水上克朗

執筆者:水上克朗(みずかみ かつろう)

ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー

離婚時の年金分割は2種類ある

年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
 
合意分割は、年金を夫婦の合意によって分割する制度です。分割対象期間は、厚生年金に加入している全ての婚姻期間です。夫婦合わせた厚生年金記録の合計を、当事者間の合意に基づき、最大で50%ずつ按分を行うことになります。
 
例えば、夫が70%、妻が30%だった場合、夫も妻も50%ずつまで分割できることになり、妻は50%を超えて分割は受けられません。
 
また、厚生年金保険料の納付実績が多いほうから少ないほうへの分割なので、妻のほうが多ければ妻の年金を夫に分割することになります。なお、もし、離婚した夫婦で合意ができない場合は、家庭裁判所の審判等で、最大50%ずつになるよう、分割割合が決まることになります。
 
一方、3号分割は、夫婦の合意がなくても、第3号被保険者だった期間の厚生年金記録の50%を分割できる制度です。
 
第3号被保険者は厚生年金に加入していないので、その間の年金はゼロになりますが、厚生年金被保険者である配偶者の厚生年金記録の50%が分割されることになります。手続きをすれば強制的に50%ずつに分割されることになり、合意分割のように離婚した夫婦の合意は必要ありません。
 
また、3号分割で分割できる記録は、制度がスタートした2008年4月以後のもののみです。婚姻期間がそれ以前からある場合は、分けてもらう年金額が少なくなってしまいます。
 
3号分割と合意分割は両方とも請求できます。2008年4月までは合意分割、2008年4月以降は3号分割とすることも可能です。
 
請求期限は離婚翌日から2年以内です。特に、合意分割の場合は夫婦で一緒に年金事務所に行くか、合意を証明する書面(公正証書や年金分割の合意書など)を提出する必要があるので、早めに手続きしましょう。
 
また、自身の生年月日に応じた受給年齢に達しなければ、年金は受給できません。なお、同じ年金制度でも、iDeCoや企業型DC(企業型確定拠出年金)は年金分割の対象外です。
 

図表1

日本年金機構「離婚時の年金分割」より筆者作成
 

専業主婦が離婚、夫の年金分割で妻の取り分は?

専業主婦が離婚すると、年金はどうなるでしょうか。「夫の年金の半分はもらえる」と思っていないでしょうか。離婚時の年金分割の仕組みは、会社員などが加入する厚生年金が対象で、国民年金は含まれません。
 
厚生年金も、結婚前や離婚後に保険料を払った分については対象外です。専業主婦など国民年金の第3号被保険者の場合、分割できる年金記録は2008年以後に保険料を払った分の2分の1と決まっています。
 
厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、年金分割を受ける側(第2号改定者)の年金額の月額平均(国民年金を含む)は、分割前が5万4281円、分割後が8万5394円です。
 
よって、分割額の平均は月額3万1000円程度です。分割後の年金は夫が死亡しても終身で受け取ることができ、これに自分の年金が加わります。
 
なお、注意が必要なのは、離婚すると2人の年金受給額の合計が減る可能性がある、ということです。図表2で、離婚しなかった場合と65歳前に離婚した場合の専業主婦世帯の年金受給額を比較してみましょう。
 
離婚しなければ、一定の条件を満たすことで「加給年金」や「振替加算」といった年金の上乗せがありますが、65歳前に離婚するといずれももらえなくなります。また、妻は原則、夫の死後も夫の厚生年金の4分の3を「遺族年金」として受け取ることができますが、離婚すると受け取れません。
 

図表2

日本年金機構「加給年金額と振替加算」「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」より筆者作成
 

まとめ

離婚するときは、自分の年金がどうなるかも、慎重に検討する必要があります。50歳以上であれば、離婚前に相手に知られることなく、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」(以下「通知書」)を請求し試算してもらうことができます。
 
これに対し、50歳未満の場合、「通知書」を見ても厚生年金記録の記載があるだけで、年金額は分かりません。ただし、「通知書」の「対象期間標準報酬総額」欄に記載された夫婦双方の数字を見れば、分割後の年金の目安が分かります。自分の年金額を把握することが大切です。
 

出典

厚生労働省 令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
日本年金機構 離婚時の年金分割
厚生労働省 令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
日本年金機構 加給年金額と振替加算
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
 
執筆者:水上克朗
ファイナンシャルプランナー、CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー

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